04
「長太郎、どうしても駅の近くにあるたこ焼きが食べたいよー」

「もう、今日は日吉がいないからってー」

「お願い!今日だけ!」



部活帰り。今日は若も樺ちゃんもそれぞれ用事があっていなくて、久しぶりに長太郎と2人で歩いている。いつもは若が寄り道を嫌がるから出来ない事をここぞとばかりにやろうとしたら、長太郎は困ったような顔をしながらも結局許してくれた。さすが長太郎ー!そうと決まったら話は早い!という事で駅には行かず、そこから少し歩いた所に向かう。



「あ!」

「どうしたのー?」

「あの人、俺が憧れてる先輩だ!」

「んー?」



とその時、急に長太郎は興奮した様子で前方にいる人の事を指差した。長くて綺麗な髪が特徴的なその人は、確かに氷帝の制服でテニスバッグを背負っていて、後ろ姿だけでも氷帝テニス部だという事がわかる。長太郎からよく聞く先輩の名前といえば…多分、宍戸さんかなぁ?そう思ってその名前を口にしてみると、長太郎は更に興奮してそうだよ!と元気良く返事をして来た。目がキラキラだ!



「話しかけないのー?」

「うん、今行く、」



今にも飛び出しそうな勢いの長太郎の背中を押そうとした矢先、急に前方、つまり宍戸さんがいる方向からキキィッ!と車が勢い良く停まる音がした。大きな音に驚いてもう一度そこに視線を戻せば、大きなトラックが車線をはみ出した状態で停まっていて、すうっと血の気が引くのを感じる。



「しっ、宍戸さんは!?」

「行こう長太郎!!」

「うん!!」



宍戸さんが見当たらない事に一気に不安になった私達は、鞄を抱え直して即座にそこに走り寄った。話した事も見た事も無い人でも普段長太郎から話を聞いてるから、勝手に身近な存在だと感じていた。だから、そんな人に何かが起こってしまうのは凄く嫌だ!

足の速い長太郎よりワンテンポ遅れて、トラックが邪魔で見えなかった場所に辿り着く。



「本当に、本当にありがとうございます!!」

「いや別に、俺は何も」



するとそこには若い女の人に全力で感謝されている宍戸さんがいた。女の人の腕の中には泣き叫んでいる赤ちゃんがいて、そばにあるベビーカーはトラックの餌食になったのかぐちゃぐちゃだ。その光景でなんとなく事の成り行きを理解して、私と長太郎は目を合わせはぁああぁ、と深い息を吐く。



「宍戸さん!!」

「あ?あ、お前1年の鳳じゃねーか。何してんだこんなトコで」



それから長太郎と一緒に宍戸さんの元に駆け寄ると、彼は不思議そうな顔で私達の事を見比べた。そして未だに頭を下げている女の人を遠慮がちにかわして、また歩き始める。その早足に取り残されないように、私達もまた着いて歩く。



「変なトコ見せちまったな」

「そ、そんな事無いです!!凄く格好良かったです!!」

「そーかよ。お前は鳳の友達か?」

「は、はい!牧田です!」



宍戸さんを真ん中に挟んでわたわたしている私達は、傍から見ると挙動不審そのものだろう。でも、あぁいう命がけの人助けを当たり前のようにやってのけ、更には何の自慢もしない宍戸さんに心臓がバクバクしてしまうのは最早必然的な事だった。多分長太郎もやばいと思う。顔真っ赤だもん。

長太郎が熱弁するのを宍戸さんは苦笑いしながら聞き流し、私はそんな2人の様子を忙しなく見ていた。するとふいに宍戸さんは私に視線を寄越してきて、その真っ直ぐな瞳に思わず大袈裟なくらいに肩が上がる。



「こんな馬鹿でも、氷帝テニス部期待の1年だからな。こいつの事よろしく頼むわ」



優しく豪快な笑顔を浮かべた宍戸さんは、そう言って私の肩をほぐすようにポンポン、と叩き、そのまま片手を挙げて私達とは違う方向に歩いて行った。その決して大きくは無いけれど頼もしい背中を、私達はまたぽかんとした表情で見つめる。



「長太郎、どうしよう、宍戸さんに惚れた」

「俺も」


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bkm
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