「…羊が2匹おる」
同じクラスになったからには、お前がジローを部活に連れて来い。
というなんとも面倒な押し付けを跡部に言い渡されたんは、つい先日のことやった。別にジローが嫌いとかそういう訳ではあらへんけど、それとこれとでは話が別で、面倒なもんは面倒。でも放棄したら今度は跡部が面倒やし、せやから俺は仕方なく毎日ジローを引き連れて部活に行っとるんやけど、時々こうやって放課後まで戻って来ん時もある。正直この場合が1番怠い。放課後だけは無駄な時間を作らんようにしとるのに、何故か今日は見逃してしもて、昼休みの時から既にこいつはおらんかった。5時間目だけじゃなくて6時間目も戻ってこんとか、どんだけ寝腐っとんねん。
そんな結構苛立った感じで探しに出たもんやから、見つけた際には怒鳴りつけて起こしたろと思っとった。…思っとったのに、なんやこの拍子抜け満載な感じは。思わずがっくりと肩を落としながら、目の前に転がっとる羊2匹に再び目を向ける。
「おいジロー、それに自分も。さっさと起きぃや、もう授業終わってんねんで」
ゆさゆさと2匹の体を揺さぶってみても、一向に起きる気配は無い。あかんほんまに面倒くさいもう置いてこかな、と溜息を吐いたと同時に1匹の方が目を覚ましたんか、んー、と声を上げた。それに俺は反応し、1匹がどんな反応をするか観察する。
「…あれ?」
「おはようさん」
「お、おはようございます。あれ、なんでしょうこの凄いすっきりした感じ。私何時間寝たんでしょう」
「さっき6時間目が終わった所やな」
「ですよねー」
飄々とその質問に答えて行けば、1匹は俺の答えに相当ショックを受けたんか両手で顔を隠し、絶対わかに怒られるもうやだ怖い?とかなんとか呟き始めた。変な子やなぁ。
「ショック受けとるとこ悪いんやけど、ジローと知り合いなん?」
「え?いや、全然。知り合いというほどでは」
「じゃあなんで一緒におるん?」
「…私は今日からこの人の枕になったみたいです」
他の奴が聞いたら色んな意味で誤解するでそれ、と思ったんは口には出さず、俺はその答えにそか、とだけ返事をした。なんやようわからへんけど、どうせジローの思いつきやろしそない追及する必要はあらへんな。さっさとこいつ起こして部活行かな。
ちゅー訳で少し強めにジローの頭をはたくと、流石にこれには耐えかねたんかこいつはいてぇ!と叫びながら飛び起きた。それを良いことにすぐに首根っこを掴み、ズルズルと引き摺るようにしてコートに向かう。
「あー!おめえ、またなー!俺ジロー!」
「わ、私は萌乃ですー!」
ん?萌乃?どっかで聞いたことあんなぁ。ま、えっか。
***
「まっ、間に合った!?」
「萌乃ちゃん遅いよー!まだ私達着付けも曖昧なんだから、萌乃ちゃんいなきゃ困るよー!」
「ごめんね!すぐに着替えるね!」
まさか放課後まで寝てしまうとは予想外過ぎた。あの眼鏡の先輩が起こしてくれなかったら危うく授業だけではなく、部活まで寝過ごすところだったと考えると、ちょっと背筋がぞっとする。
そうして全力疾走で弓道部の更衣室に駆け込むと、そこには不安げな表情で私の事を待っててくれた皆がいた。その表情を和らげる為にマッハで袴に着替えて、皆の着付けもチェックして、また走って先輩達が待っている道場に向かう。
「そういえば萌乃、昼休みの後何処行ってたの?」
「あー…ちょ、ちょっとねー」
「日吉君が苛立ってたよー」
「うわわ、やっぱり?」
そこで同じクラスの女の子から聞いた言葉にはちょっと気が滅入ったけど、これから部活が始まるというのにそうもメソメソしてられない。だから私は一度気合を入れるように自分のほっぺを叩いて、意気込みをした。同時に、もうジロー先輩の誘惑には負けない!と決めた!
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忍足とジローはまだ2年生なので公式のクラスではありません。