03
俺の好きなもの?えーっとね、まずは寝ることでしょ。あとポッキーでしょ。羊でしょ。テニスも勿論好きだし、跡部との試合なんてもう抜群に楽C!宍戸と岳人とお泊り会するのも好きだし、家がクリーニング店やってるとこも好き。家中柔軟剤の匂いで超癒されるもん。母ちゃんの手料理も跡部とか滝がくれるおいC食べ物も好きだし、もうね、俺の周りは好きなものばっか!

あ、あともう1つ。俺は女の子が好き。いっつもコートにいる子達はちょっとうるさくて苦手だけど、女の子は柔らかくて寝るのに最適だから好きー。だからよく妹の膝枕で寝てるんだけど、今までは妹以外の女の子にはそういう事は出来なかった。なんかね、女の子の方が意識しちゃうんだってー。俺は寝るだけなのに。

だから、そういう意識を俺に持たない女の子が欲しかったのか、それともただ気持ち良い枕が欲しかっただけなのか。



「あのー!授業始まりますよー!ちょっとー!」

「んー…気持ちEー…」



答えは勿論、後者だCー!



***



「こりゃ大変だ」



誰が返事をしてくれる訳でもないのに思わず声に出してしまったのは、この状況が本当にこりゃ大変だからである。…いやいやいやどうしよう!

美化委員の私は、廊下でたまたま会った美化委員の先生に、「裏庭の花壇にお水あげてきて!」と頼まれて、皆でご飯を食べた後に1人で此処、裏庭まで来た。お花については別に詳しくないけど嫌いでもないし、丁寧に手入れされてるお花を見て癒されたのも事実だ。そして、そんな綺麗なお花達の近くに可愛い人がいれば、更に癒されるのはそりゃもう当たり前でしょ?そうでしょ!?

…そう思って、安易に近付いたのがいけなかった。



「あぁ、チャイム鳴っちゃったよもう、若に絶対怒られるよ」



私の嘆きに返ってくるのは、相変わらずこの人の寝息と鳥の鳴き声だけだ。そんなどうしようも無い状況に半分諦めモードで溜息を吐いて、こうなってしまった経緯をもう一度思い返す。





先生に言われるがままに裏庭に来ると、そこには花壇だけではなく、芝生に転がって寝ていたこの人もいた。じょうろに注いだ水を撒き散らしながら、可愛い男の子だなーと思いつつその人を見ていると、ちょうど水が無くなったと同じぐらいにこの人は目を覚ました。体を起こして、目をこすって、辺りを見渡して。そうして私と目が合った瞬間に発した第一声は、「あ、女の子だー」というなんとも反応に困るものだった。

だから私も、「女の子ですよー」なんていうちょっと頭が弱く思われそうな返事をする。その時にあれ?この人なんかどっかで見たような気が、と思ったけど、私が思い出す前にこの人の方が何かを思い出したのか、急に指を差しながらあぁーっ!!と大声を出してきた。びっくりしすぎて止まりそうになった心臓を手で抑えながら、詰め寄ってくるこの人を凝視する。わお、顔近い!



「おめえ、樺ちゃん達と仲良い女の子でしょー!?」

「お?樺ちゃんを知ってるということはテニス部の先輩ですね!?どうりで見覚えがあるなぁと!」

「そうだC!」



ニカッ、と輝かしいほどの笑顔を向けながらそう言ってきた先輩に、ようやく曖昧だった記憶がはっきりした。いつだか長太郎が言ってた、いっつも寝てばっかりで自由奔放な先輩がいるんだけど、テニスのセンスは抜群に凄いんだ、って。寝てばっかり、自由奔放、絶対にこの人の事だ!



「跡部も、おめえの事小型犬みたいって言ってたからよく覚えてるんだー」

「ああああ跡部先輩がですか!?」

「なになに、跡部のファンなのー?」

「ファンといいますか、優しくて格好良くて本当に素敵でもう崇拝の域といいますか、そんな人に覚えてもらえてたなんて感激で!」

「跡部かっこEよねー!俺も跡部の大ファンー!」



男の人まで惹きつけるとは、さすが跡部先輩だ。彼に顔を覚えてもらえてたなんて純粋に嬉しすぎる!例えるならば、芸能人からファンレターの返事を貰ったような気分(送った事は無いけど!)。だからその喜びを隠す事なく、ひたすら先輩と跡部先輩素敵談義を繰り広げていると、唐突に先輩は声をあげて笑い始めた。



「おっもしれー!でもおめえ、ファンクラブとかには入ってないでしょー?」

「ファンクラブまであるんですか!?さすが跡部先輩…!」

「うんうん、あの子達とはまた違った感じだC。どっちかっていうとおめえは俺寄りだよね!跡部への大好きの種類!」



こういう、男の子なら照れて言えないようなことを普通に言いのけちゃう人は個人的に大好きだ!だから、正直意味はあんまり分かってないけど先輩の言ったことにうんうん、と頷けば、先輩はより一層笑みを深めた。

そして。



「じゃあおめえ、今日から俺の枕!」

「へ?」



そんなことを言ってきたのだ。






「あー、もういっかぁ」



とはいえ、最初はあたふたしていたもののもうここまで来るとどうでもよくなってくるもので。私の膝に頭を乗せている先輩を今一度見てから、私はボスッとそのまま後ろに倒れた。芝生のチクチクした感じがダイレクトに顔に刺さってきて、ちょっとこそばゆい。ポケットから携帯を取り出して時刻を確認すれば、まだ授業が始まって10分も経っていなかった。先生に対しての言い訳は、きっと若がなんとかしてくれてるでしょうー。

色んなことを勝手に辻褄良く考えて、さぁ寝ようと、ゆっくり目を閉じた。


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