「赤也君お待たせ、…あ」



私のバイト先と立海のちょうど真ん中あたりに位置する公園に着くと、赤也君はベンチに寄りかかって寝息を立てていた。今年の春に立海高校に入学してきた赤也君は、勿論当たり前のようにテニス部に入部したのだけれど、中学の頃よりも更にハードな練習量には珍しく根を上げているらしい。ちなみにこれは本人からじゃなくて幸村情報。だから、オフの日も何処かへ出かけるというよりは1か所でゆっくり過ごす事の方が多くなった。私はそれでも全然満足なんだけど、…という誰に聞かせるでもない惚気は今はおいといて。

いくらもう5月とはいえ、日は完全に落ち切ってるし夜にかけてはまだ冷え込む。だから彼の隣に座って軽く体を揺らしてみるけれど、一向にその目は開かない。



「…よーし」



そこまで寝られるといい加減こっちも何かしてやりたくなるもので、とりあえず私はベンチの後ろに移動した。そして後ろから赤也君の頭を結構な力で叩き、ビクン!と飛び上がった所を瞬時に両目を塞いで抑える。いわゆる「だーれだ」ってやつ。

案の定赤也君はぎゃあぎゃあと騒ぎ始め、家に帰ろうとしている親子は不思議そうな顔で私達を見ていた。「ママー、あの人達何してるのー?」「見ちゃいけません」…ちょっとそれは恥ずかしい。でもまぁいっか、と笑いを堪えながら赤也君の動揺を見ていると、ふいに体がガクンと前のめりになった。急な事に対応出来ずにダイレクトに赤也君の肩に顎をぶつける。



「い、痛い…」

「うわぁああすみません!力強く引っ張りすぎました!つーか着いたならもっと別の起こし方して下さいよー!」

「したけど起きなかったのは赤也君でしょー!」



変な体勢でまたぎゃあぎゃあと口論を始めた私達だけど、少し経つとどうでもよくなって顔を見合わせて笑った。そしてそのまままた体を引っ張られ、一瞬にして唇が暖かくなる。



「これに懲りたらもうイタズラしようなんて思わない事っすね!」

「…この生意気な!」

「痛い痛いー!」



時が経つにつれて最初のような初々しさが無くなってきたのは確か。でも、2人の時に見せてくれる表情からは本来感じているであろう疲れが全く見られないので、私によって赤也君の疲れが解消されてるならそれでいいかな、と口に出すにはちょっと恥ずかしすぎる事を思った。
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