「すっげえー!でっけぇえー!」

「うるさいぞブン太!」



11歳、3月。今日は来月から入る中学校の見学日で、周りには私と同じようにランドセルを背負った人達が何人もいる。お母さんの付き添いを断って1人で来たけど、あまりにも学校の大きさが想像以上で思わず私は校門前でぼーっとしていた。すると、隣に赤髪の人とハゲている人が来て、その人達が中に入っていったのに続いて私も玄関に向かう。

中に入ると、制服を着た中学生達が校内案内をする為に、私達小学生を何人かのグループに分けて誘導した。前にいるおかっぱで糸目の人は、中学生が説明している言葉全部をメモる勢いでノートに何かを書き込んでいた。



「こら、雅治!貴方が通う学校でしょ!ちゃんとしなさい!」

「…プリ」



私のように1人で見学に来ている人はあまりいなくて、大抵はお母さんが付き添っている。ふと後ろを振り向くと、猫背で色白のその人はやる気なさげに長い髪を弄んでいた。



「凄く広い校舎ねー。お母さん迷っちゃいそう」

「お母さんの事は私が案内するので、心配しないで下さい」

「頼もしい、ありがとう比呂士君」



通りすがった眼鏡の人は、お母さんに褒められたのが嬉しいのか目を細め頬を緩めていた。あんな会話、うちの家族じゃありえない。そんな事を思いながら更に足を進める。



「幸村ー!幸村のお母様ー!何処だー!」



とその時、前方から帽子をかぶっている人が困ったように叫びながら歩いて来た。迷子っぽい。それを見て私達を案内していた中学生は一度案内を止め、そのまま帽子の人を何処かへ連れて行った。

大して聞いてなかった案内だけど、無くなったら無くなったで暇だ。どうせなら探検してみよう。最後に前の人のノートをちらりと見て、充実した生活を送れる確率83%、と書いてあったのを確認して、適当に階段に上る。

上り続けていると、多分屋上っぽい所に繋がっているドアを発見した。そろそろ校内を歩くのも飽きてきたし、入っちゃえ。キィイイ。ドアを開ける。



「凄いねお母さん!辺り一面花だらけだよ!」

「そうね、お花好きな精市にぴったりね」



ドアを開けた先は、まさに花だらけだった。手入れされている花達は凄く綺麗で、お母さんの事を置いてきぼりにしてはしゃいでいる人も物凄く笑顔だ。



「俺、中学校に来るの楽しみ」

「えぇ、お母さんも楽しみだわ」



すぐ隣で聞こえた会話がなんとなく耳に残って、2人が通りすぎてからもその姿を見る為に首を後ろにやる。すると、なぜか男の子の方とばっちり目が合った。まさか合うとは思ってなかったから逸らすにも逸らせなくて、無表情のまま男の子を見続ける。そして最後の最後、姿が見えなくなる直前、男の子はにこっと笑って屋上から出て行った。

それからしばらく花達を見て、帰る為にまた階段を下りる。最初に校門で見た赤髪の人とハゲた人が鬼ごっこしているのを見かけつつ、そこでふと窓の外に目をやる。



「よっしゃ!!」



すぐ近くにはテニスコートがあって、フェンスには私よりも多分年下の、頭がクルクルした人が試合を見ながら大声を上げていた。元気だなぁ。

ものの30分ほどで見学を終え、外靴に履き替えて校門までの道をとことこと歩く。今日目にした人はなんだか個性的な人ばっかりだったけど、とりあえず私は静かに地味に過ごせてればいいや。校門付近の木の下で大きなあくびをしていた太り気味の猫を見て、私もつられてあくびをした。
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