「ようやくおまんも二十歳か」

「うん」

「大人になったのう、あの優等生がこげん垢抜けるとは」

「でも、全然実感無いなぁ」

「どうする?どっかえぇレストランでも行く?」

「…うん」

「そう言うと思っていつもの居酒屋予約しといたぜよ」

「わ、私何も言ってない!」

「顔に書いてあるなり。まだまだおまんには早いのう」

「…子ども扱いしないでよ」



その居酒屋は雅治さんの行きつけで、いつも隣で美味しそうにお酒を飲む雅治さんを私は凄く羨んでいた。料理も美味しくて、店内もうるさすぎなくて、いつか此処で雅治さんと一緒に飲んでほろ酔いになって色んな時間を共有したいと思ってた。いつもはセーブしている雅治さんの酔っ払った姿を見たいなぁと思ってたし、自分の酔っ払った姿を最初に見せるのは雅治さんでありたいなぁとも思ってた。油断した姿は、この人にしか見せたくないのだ。



「美味い酒ストックしといてもらったぜよ。後、いつもより豪華な料理も」

「ありがとう、雅治さん」

「レストランは、またいつか」



高級レストランでしっかりした格好をしている雅治さんも見たい。少し着飾った自分も見せたい。でも今はまだこのくらいでいい、そうやって無理をしないでこの人と歳を重ねていきたいな、と心の中で思った。口には出さないのは、きっとこの人はもうそれを全部見抜いているだろうから。
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