「今日の会議で俺、異動になったんだけどよ」

「え、やだ、まさか転勤とか言わないよね?」

「その逆。こっから1番近い事務所の代表になった」

「代表!?凄いじゃん!早く言ってくれればもっと張り切ってご飯作ったのに」

「おう、サンキュ。それでよ」

「うん?」

「もうしばらく転勤はありえねぇことも確定したし、そろそろ、よ」

「…うん?」

「…収入もほぼ2倍っつってもいいくらいがつんと上がるし、俺そんな金使わねーから貯金もあるし」

「…」

「お前が良ければ、なんだけどよ」



いつもはさっぱりすぎるくらい男らしいのに、今私の目の前に座っている宍戸さんは、ハンバーグを食べる手をすっかり止めて目を泳がせている。そうして机に出された1枚の紙を見た瞬間、私の心臓は一度大きく高鳴った。いまいち状況が掴めず宍戸さんと紙を交互に見ていると、宍戸さんはフッと笑い、いい加減吹っ切れたのか「いいから書けよ」と豪快な笑顔で言ってきた。だから私は急いでペンと印鑑を持ってきて、しっかりと記入して、そのまま宍戸さんに抱きついた。

きっとこれから、宍戸さんと一緒になってからぼんやりと思い描いていた暖かい生活が待っている。愛おしくて、嬉しくて、どうにかなりそうだ。まずは、宍戸さんの肩越しに見えるベッドをダブルベッドに買い換えようと思った。
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