ラプソディは転調する



心地良い陽射しがカーテンの隙間から差し込み、鳥のさえずりで目を覚ます。そんな理想的すぎる朝を迎えたところで、朝食にありつくべく眠たい目をこすりながら階段を降りる。



「おはよう精市。それと、───」



台所には既に両親と妹が座っていて、机の上に置かれた朝食はいつもより豪華だ。俺はその事にお礼を言い、それらをゆっくりと味わい、身支度を済ませた。

妹と一緒に行ってきます、と言えば、両親から暖かい表情で行ってらっしゃい、と送り出される。妹とは他愛も無い話をしながら歩いて、途中の交差点で別れた。

そんな何気ない光景がなんだか特別に感じる。今日は、卒業式だ。



***



「卒業生、入場」



見慣れた顔ぶれがクラスにいすぎるせいか、どうにも卒業式独特の緊張感が持てない。そしてそれは俺だけではなく皆も一緒のようで、ブン太に至ってはこの期に及んでガムを噛んでる事を注意されていた。馬鹿だあいつ。

単調で退屈な来賓や校長の言葉を聞き流し、卒業生代表、のアナウンスで俺を含めた何人かがピクリと反応する。そのアナウンスに馬鹿でかい声で返事をした真田は、周りの驚く様など全く気にしていない様子で登壇して行った。前の席の仁王がブン太に振り返って笑い、そのままブン太は柳生に振り返って笑い。柳生は流石に振り返って来なかったけど、俺とあと多分俺の前の席の蓮二も小さく口角を上げた。



「あいつ壇上で泣くんじゃないの」

「既に涙目だからな」

「うける」



お互い前を向いたまま蓮二と会話を交わせば、聞こえたのであろう柳生が微妙な表情で振り返って来た。あはは、ごめんね柳生。

真田の熱気溢れる答辞はそれから5分くらい続いて、それでも終わった頃には下級生側の席から何人かのすすり泣く声が聞こえた。赤也はまぁ確実として、なんだかんだあいつも副部長として愛されてたんだなと思うと、俺もほんの少しだけグッと来た。

その後は卒業証書授与式だ。トップバッターはこれまた真田で、答辞の時と同じく若干暑苦しいくらいの元気さでそれを受け取っていた。次のジャッカルは、部活を引退して少し痩せたからか、なんだかめちゃくちゃスタイルが良く見えた。顔ちっさ足なっが。仁王も相変わらず猫背なのが惜しいけど、なんか全体的に薄い。細すぎ。だから、その2人からのブン太というのは中々インパクトがあって、俺は思わず軽く噴き出した。蓮二も肩震わせてるし。で、次に柳生、蓮二、俺と。俺達3人は別に至って普通だから割愛する。



「田代晴香」

「はい」



そして、田代だ。

多分直前まで寝ていたのか、返事をした声は少し掠れていた。いつもは面倒だからと外している第一ボタンもきちんと締めていて、心なしか髪型もちゃんとしている。恐らくお母さんに言われたのだろう。

ふと前を見ると、俺だけではなく全員がなんとなく田代をじーっと見ていた。優等生組は勿論の事、それまで眠そうにしていた奴も、皆田代を見つめていた。



「田代は、随分立派になったな」

「…何親みたいな事言ってるのさ」



蓮二からの返事は無い。でも、確かに田代は変わった。

初めて会った時はあんなに全てが面倒臭くてたまらないって顔してたのに、あれからどれだけの表情を見る事が出来ただろうか。どれだけ助けられて、喧嘩して、楽しんだ事か。

俺はそこで初めて、あぁ今日でもう卒業するんだなぁ、という実感が沸いた。どうせ大学も一緒だし、というのはわかってる。中学の頃だってどうせ高校も一緒だしと思っていたし、現に高校に入った所で俺達は何も変わらなかった。

でも、何故だろう。それでも田代を見るとどうにも込み上げてくるものがあって、俺はそんな自分に苦笑した。
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