「はい、作戦会議その12!田代の明日の服装について再び意見を集めます!」 「いや、もういいから」 「ぜーーったいミニスカが良いっす!!」 「寒い無理」 12月24日。今日は、街中が浮かれる1日目のクリスマスイブだ。私達は昼に食べ放題に行き、それからボーリング、今はカラオケというなんともハードな1日を送っている。そして、それを更にうるさくさせているのがこの作戦会議だ。幸村君がいなくなる度に開かれているこの会議は現時点で12回目を迎えており、いい加減うるさいわ話は進まないわで正直迷惑でしかない。 「いやいやここは王道にワンピースじゃろ」 「確かに、田代は普段パンツスタイルが多いからな。良いギャップになるだろう」 「折角綺麗な脚をしているのに勿体無いですからね」 「大真面目に何を言っているんだ柳生君」 これまでの会議では、幸村君にあげるプレゼントや2人でいる時に気を付ける事?などを話し合って来たが、どれも大して覚えてないし参考にもならなかった。今話題の服装についてもそこまで悩んでいなかったし、当日の気分で適当に決めればいいや、と思っていた。なのに、私よりこの人達の方が盛り上がってるとはどういう事だ。幸村君、早くトイレから戻って来て。その一心で両手で耳を塞ぎ、鬱陶しさ全開で目を閉じる。 「田代!人の話を聞かんかっ!」 「まぁまぁ。田代と幸村なら心配ないし、今更俺達が口を挟む事でも無いだろ」 「そんな事はわかってんだよぃ馬鹿ジャッカル!」 「馬鹿!?」 とそこで丸井君は、桑原君を馬鹿呼ばわりした挙句急にテーブルにガンッ!と片足を乗せ、興奮した様子で拳を握った。酔ってるのかこの人。 「俺達が楽しみで仕方ねーんだよぃ!!」 「それファイナルアンサーっす、先輩!」 あぁ、やっぱり酔ってる。 *** 「あ゛ー喉ガラガラだぜぃー」 「夕方からずっと居座っていたからな。仁王、よしかかるな」 「中盤の真田リサイタルショーでは死にかけたぜよ…」 時間が経つのは早いもので、彼らはカップルが歩く並木道を集団でぞろぞろと歩き帰路に着いている。唯一の紅一点である晴香も、寒さに耐えるよう端っこで身を縮こませているのでその存在感は無く、色男達がこんな日に集団で歩いているのは異様だった。 「完全にムードぶち壊してるよな、俺達」 「むーどとは何の事だ?」 「副ブチョくらい図太い人が隣にいたらもう何も怖くないっすー」 ジャッカルの発言に他の者は苦笑したり、あるいは全く気にしていない素振りをしたりという反応を見せたが、本当に何も気付いていない真田には最早ツッコむ気力さえ起きない。周囲のどこか煮え切らない態度に真田はしばらく眉を顰めていたが、それも幸村と柳が一蹴した事により収まった。 「では、私はここから帰るとしましょう。皆さん、アデュー」 「俺もこっちじゃ。次会うのは年越しかのう?」 「おう、カウントダウン行こーぜ!」 別れるのを惜しむように、しばらくゆっくり歩きながら雑談をしていた彼らだが、それもここらでお開きのようだ。柳生と仁王が別方向へ行ったのを区切りに、丸井と切原、真田、最後に柳という順番で解散した。必然的に残ったのは晴香と、彼女とは逆方向だが送り届ける為に隣に立っている幸村だ。 「で、お前は会議でどんな話題が出た?」 「え」 とそこで幸村は、2人になった途端唐突にそんな話題を切り出した。確かにあのうるささだったらバレていてもおかしくはないが、ここまで確信的に問われるとは。晴香の戸惑いに気付いた幸村は、白い息と共に笑いながらさりげなく彼女の手を握り、話を続けた。 「あいつら声でかいからドア越しでも聞こえてたっていうのもあるけど、お前がいない時にも会議はあったんだよ」 「そうなのか」 「ちなみにパート8まで行った。そっちは?」 「14だ」 「どんだけ人の目盗んでんだよあいつら。俺カラオケの時トイレあんま行かなかったし、となると飯かボーリングの時で?」 「少人数で会議をした時もあったからな」 あまりにも子供じみた行動を思い出して2人は噴き出すように笑い、それからしばらくその場には笑い声が響き渡った。静かな住宅街にはその声がよく響いたがどの家も今日はパーティーに夢中なのか、食欲をそそる匂いが鼻をかすめ、軽快なクリスマスソングが耳に入る。更には玄関先が綺麗にイルミネーションされている家も多く、全てが2人の気持ちを舞い上がらせるのに最適な条件だった。 そうして笑いが収まった所で、歯がゆいような、でも暖かい沈黙が走る。気まずい訳ではないが落ち着かないその沈黙に、2人は一切目を合わせず前だけを見て歩く。 「…あ、明日さ。15時にいつもの所な」 「あぁ」 「昼飯は食べて来て、夜は予約しておいたから」 「わかった」 「…そんなとこかな」 ピタ、と足を止め横を見れば、すぐ目の前には晴香の家がある。それを見て晴香はじゃあまた明日、と玄関に入ろうとしたが、その瞬間幸村はおもむろにポケットから左手を出し、そのまま彼女の左手を握った。急に両手が塞がった事に彼女は動揺を隠せず、真っ正面に立っている幸村の顔と繋がれている手を何度も見比べたが、彼は中々視線を合わせようとしない。 「幸村君、どうしたんだ」 「あのさ、田代」 「晴香ー帰ったのー!?パーティーしましょーパー…ティー…?」 と、その時。なんとも言えないタイミングで玄関から出て来たのは、サンタの帽子をかぶり手にはクラッカーを持っている晴香の母だ。その後ろからは晴香の父も出て来たが、彼に至っては全身サンタのコスプレで、ちゃっかり白ひげまで付けている。4人は事の状況が理解出来ていないのか、そのまま見つめ合った状態でしばし固まった。 「ご、ごめんなさいね?窓から晴香が見えたから迎えに来たんだけど、彼の姿は死角になって見えてなくてね…?あ、貴方幸村君よね?」 「そ、うです」 「じゃ、邪魔して堪忍なぁ!はっはっはー!ほら入るで母さん!晴香、ごちそうぎょうさん用意しとるからなー!」 しどろもどろで交わされた会話はなんともぎごちなく、父母は空気を読んだつもりなのだろうが残された2人の気まずさといったら無い。晴香からすると何がなんだかわからない、といった感じだが、幸村に至っては完全に気力を吸い取られたような気分だ。 「どうしよう、俺挨拶出来なかった」 「気にしなくていい。それより、何か言いたい事があったんじゃないのか?」 「…いや、今はいいや。じゃあ田代、また明日ね」 「?あぁ」 無垢に見つめてくる晴香の頭を幸村は苦笑しながら撫で、半ば諦めたような態度で彼女から手を離し、歩き出した。しかし、そんな様子を見てしまえば流石の晴香も煮え切らない。 「幸村君!」 タタタッ、と急いで駆け寄り、そのままの勢いで幸村が振り向く前にその背中に飛び付く。 「楽しみにしてる、から」 それだけを吐き捨てて、幸村の反応も見ずに家の中に飛び込む。バタン!と勢い良く扉が閉まる音がしたので、彼は結局後ろを振り向く事なく再び歩き出した。寒さのせいかそれとも別の理由があるのか、その顔は耳まで真っ赤に染まっている。 |