くるっとまわって落ちました



学祭準備は、教室・部活展示共に驚くほどスムーズに行われた。部活展示は結局赤也の提案通りバンドを組む事になった訳だけど、楽器が出来る後輩も優秀だし、ボーカルを務める俺達レギュラーは当たり前に歌が上手いし、特に壁もなく事は進んだ。体育館を貸し切って披露するというのはなんだか大がかりすぎる気もするけど、これも赤也の要望だから仕方ない。赤也の先輩離れの出来なさを考える前に、俺達の親馬鹿さも程々にするべきだなとこの時実感した。

変わりばえのしないメンバーで進めた教室展示の巨大迷路も、主に真田がせっせと働いてくれたおかげで(無理矢理働かせたわけじゃないからね)割と早く組み立て終わった。というか、それを抜きにしてもこのクラスには働き者が多く、何かと楽しみながら準備が出来たと思う。完成した迷路に勢いで飛び込んで行ったブン太と、ブン太に無理矢理連れられた仁王と田代が早速迷ったりね。



「クイズあり、障害物ありの巨大迷路はこっちですよー!入った入ったー!」



そんなこんなで今日は、あっという間に学祭2日目だ。何処のクラスも昨日の反省点を生かしてるのか、それとも一般人が来ているからそことなくテンションが上がっているのか、今日は昨日よりも学校全体が賑やかに感じる。なんにせよ俺達にとってこの学祭が最後の学祭なんだし、確かに楽しまない訳にはいかないだろう。



「精市、後1時間でバンドのリハーサルをしに体育館へ行かなければならないんだが」

「あぁ、わかった。他の奴らにも呼びかけておかないとね」

「弦一郎と柳生とジャッカルには言っておいた。だが、」

「…またあの悪ガキ3人組か」



そこで蓮二が話しかけて来た内容を聞いて、溜息と同時に眉間に皺が寄る。実は、あの3人がこんな風に突如消え去るのは今に始まったことじゃない。最初のうちはブン太に2人が無理矢理連れられる形だったのだけれど、屋外に出されている屋台に目が眩んだ田代は何回目からか積極的に逃げ出すようになった。そうとなれば、田代の金魚の糞である仁王なんて当たり前のようにそっち側に着いていく。



「そろそろ俺が直々に迎えに行ってあげた方がいいかな?」

「それが適当だろう。お前的にもつまらないだろうしな」

「…いらない事言うなよ」



相変わらず腹立つ顔でからかってきた蓮二には、軽く胸板を殴っておく。そうして「行ってらっしゃい」と言われた所で、俺は3人を探すべく足を踏み出した。…のだけれども。



「幸村君1人なの?一緒に回ろー!」

「ごめんね、ちょっと人探しをしているんだ」

「えーいいじゃーん、回ろうよー」



1人になった途端、見計らっていたように綺麗でも無い脚を露出した女共が近付いて来た。確かに田代のおかげで以前より女に対しての嫌悪感は無くなったけれど、こういうあからさまなのにはいつまで経っても良い気分を持てる気がしない。むしろ持つ気もないけど。

こっちが下手に出れば調子に乗り始めたのか、女共は俺の腕を勝手に取り、更には貧相な胸を押し当てるように歩き出した。もうこれは大胆というよりも単なる迷惑行為だ。流石にここまでこいつらに身を許してやる謂れは無いと思った俺は、やんわりと、でも思いっ切り力を込めてその腕達を引き剥がした。



「えー幸村君つれなーい」

「だから、探している人がいるから、っ?」

「きゃあっ!?」



女共を追い払うように早足で地面を蹴る。それでも女共は小走りで着いて来て、いい加減ストレートに言ってやろうかと思い足を止めた、その時だった。ドスン!と明らかに1人分ではない重みが俺の背中に圧し掛かる。両隣にいた女共はその勢いに耐え切れなかったのか軽く吹き飛ばされて、心底驚いた表情で悲鳴を上げた。甲高い悲鳴は耳障りではあったけれど、状況を把握出来ていないのは俺も同じだ。だからとりあえず騒動の根源である背中に振り向けば、そこには



「ゆ、幸村君!お迎えに来たぜぃ!」

「…ピ、ピヨッ」



顔を俯かせている田代と、そんな田代に無理矢理腕を取られているブン太と仁王がいた。並び順は左からブン太、田代、仁王だ。ブン太と仁王が何やら焦った表情を浮かべているのも、まさかの田代が2人の腕を取って真ん中にいるのも、ていうかなんで俯いているのかも全部がわからなくて、思わず眉間に刻み込んでいた皺を倍量にする。



「え、お前達3人で猛突進して来たの?俺の背中に?何で?あと君達しつこいからそろそろどっか行って。もう一度言うよ?どっか行け」

「い、いやー…ちょっと、なんか、田代がおかしいっていうか…?」



畳みかける勢いで目の前の悪ガキ3人組、ついでに女共に言葉を投げつければ、女共は怯えた表情で何処かへ走り去り、ブン太と仁王は互いに目を合わせて言葉に詰まった。その間も田代はずっと俯いたままだ。

勝手に持ち場を離れた事を怒らなきゃいけないのは勿論だけど、どうやらこの行動の原因は田代にあるらしい。だから俺は田代に視線を合わせる為に軽く中腰になり、顔を覗き込んで再度「どうしたの?」と問いかけた。



「…戻る」

「は?いや、だからどうしたのって聞いて」

「戻る」



数秒沈黙が続いた後に上がった田代の顔は、何かを恥じらっているような、我慢しているような、そんな言い表しようのない複雑な表情をしていた。それに対し更に詰め寄ろうと思えば今度は「戻る」の一点張りだ。…しかも、俺の手を取ってズンズンと歩き出したし。



「田代、お前鼻真っ赤だけど。それって俺の背中に思いっきりぶつかったから?」

「いいから戻る!」



ブン太と仁王もまとめて、逃げ出した事を怒らなきゃいけないのに。なんで2人を引き連れて俺に突進して来たか、聞き出さなきゃいけないのに。やらなきゃいけない事は沢山あるのに、ふと目を向けた目の前の田代の耳がほんのり赤く染まってたせいで、結局俺は何も言えなくなってしまった。



「…なんか俺達置いてきぼりじゃね?何この疎外感」

「田代、幸村の後ろ姿見つけるなりそっこー走り出したのう。わざわざ俺達の腕引っ張って」

「な。おかげで女子達にまでタックルしちまったぜぃ」

「…意外と気持ちに正直なんじゃな」

「…な。」
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