自然と目で追うその姿



季節は過ぎ、立海は先日修了式を終えて春休みに入った。高校は中学よりも時の流れが早く、私達はもう最高学年になる。それが関係してるのか、今年の春休みは例年よりも部活が多く行われている。

更には、こんな事まで。



「四天宝寺とは駅前で合流する事になっている。氷帝は跡部の自家用バスでそのまま現地まで行くそうだから、着いたらまずは───…」



バスの中、私達は幸村君の説明に真剣に耳を傾けている。

これから何が行われるのかというと、県内にある柳君の叔父のペンションにて氷帝、四天宝寺、立海の合同合宿が2泊3日で開催されるのだ。皆は中学の頃は毎年行っていたらしいが高校に入ってからは今日が初めてで、久しぶりの事に浮かれているのか切原君あたりが少しうるさい。まぁ多分それは、今回は他校もいるからというのもあるのだろうけど。

普段から何かと集まったり遊んだりする事が多い私達だから、合宿も一緒に行おうというのは当たり前と言っていいほど簡単に決まった。勿論、これは遊びではなく部活だから単なる仲良しこよしでやっていくつもりは毛頭無い。遊びは遊び、部活は部活だ。まぁそんなの私がいちいち言わなくてもこの人達の方がずっと理解しているだろうが。



「お、四天いたぜぃ!」

「俺と真田で迎えに行ってくるからお前らちょっと待ってて。行くよ真田」

「うむ」



そんな事を考えているうちに駅に辿り着き、そこには笑顔で私達のバスに手を振っている四天の皆がいた。今年やっと高校に入学するという金ちゃんも勿論いて、以前より何回りか大きくなったその姿に親心のようなものが生まれる。大きくなったな、金ちゃん。



「遠山、大きくなったのう」

「私も今同じ事思った」

「丸井先輩、アイツにも身長追い抜かされたんじゃないっすかー?」

「それはねぇ!断じてねぇ!」



私の隣に座ってる仁王君、前に座っている丸井君と切原君も同じ事を思っていたらしく、前の2人に至っては私達の方に身を乗り出しながら同調して来た。その間も外にいる金ちゃんはブンブンと手を振っているので、私達は少し笑いながら振り返す。



「お邪魔するでー、今回はよろしゅうなぁ!」



少し経ってから、蔵ノ介を先頭に四天の皆がバスに乗り込んで来た。蔵ノ介の言葉に私達もそれぞれ声を掛けたり頭を下げたりして、いよいよペンションに向かって出発だ。



「久しぶりやなー!なぁなぁ、ワイトランプ持ってきたんや!皆でしよーやー!」

「お前気利くじゃーん!俺スピードやりたいっす!」

「スピードならこのスピードスターにお任せ、てそれじゃあ2人しか出来ないやん!」



切原君の素ボケに謙也がツッコんだ所で、バス内はたちまち笑い声に包まれた。四天の皆が居る所はいつも笑顔だなぁ、と常々思う。

それからトランプが始まると、皆は白熱しすぎて当初の席順はバラバラになった。私は動くのが面倒だからそのまま仁王君の隣にいたのだが、どうもこの窓側の席ではトランプを出しにくい事に気付き、通路側の空いている席に移動した。移動する際仁王君には随分と渋られたが、そんなのは関係無い。出しにくいものは出しにくいのだ。



「お前がそのうち此処に来る確率は97%だったぞ」

「あの席からじゃトランプが出しにくい」

「だろうな」



空いている通路側の席に座ると、その席の窓側には柳君が座っていた。彼はトランプには参加せず傍観を決め込んでいて、手にはお馴染のノートが持たれている。こんな時までデータとは、その抜かりの無さには圧倒されるばかりだ。



「晴香、はよ引きぃや!」

「わかった」



そして、私の前の席にはユウジが座っていた。彼の急かす言葉で柳君から視線を外し、目の前のトランプに意識を集中させる。ババは嫌だ、ババは嫌だ。そう念を込めながらスッと1枚引くと、願い通りカードにはクイーンが居座っていた。良かった。



「表情に出すぎばいねぇ」

「…うるさい」

「無駄が多いでぇ、晴香」



しかしその瞬間の表情を見られたのか、通路を挟んで隣に座っている千里、千里の前にいる蔵ノ介にそう言葉を投げかけられた。この2人は何かとグルになって茶化して来る事が多いから厄介だ。そんな不満を胸に抱えながら、後ろにいる真田君にカードを向ける。



「むんっ!!」

「真田君、力みすぎです」



真田君の隣に座っている柳生君は、柳君と同じように傍観を決め込んでいて、意気込み過ぎな声を上げた真田君に苦笑した。確かに張り切り過ぎだ。



「そういえば柳君、この席は誰が座っていたんだ?」

「あぁ、そこは」

「俺だよ」



そこでふと気になった事を柳君に問いかけると、彼の言葉を遮って頭上から幸村君の声が聞こえた。彼は通路に立って私の事を笑顔で見降ろしており、これは退けるべきかと思ったので少し腰を浮かせる。が、立ちあがる前に幸村君は私の肩を押さえ「いいよ、座ってて」と言ってくれたので、お言葉に甘えて再度座る。



「何処に行ってたんだ?」

「運転手さんに後どれくらいで着くか聞いて来たんだ。大体1時間位だってさ」

「そうか、まだ先は長いな。幸村君はトランプしないのか?」

「俺ちょっと1番後ろで寝てくる。昨日あまり寝れなくてさ」



幸村君はそう言うと苦笑して、私の肩に置いていた手を離し1番後ろに行った。しかしその後ろ姿に若干の違和感を抱いた私は、眉を顰めながら柳君に向き直った。



「柳君、何か幸村君変じゃないか」

「変?何処がだ?」

「何か、元気が無い」



柳君は不思議そうに首を傾げ、「本人も言っていたし、ただの寝不足じゃないか」と正論を言った。まぁ、言われてみれば確かにそうか。そう思い直した私は、再び順番が回って来たので目の前のユウジのカードを見つめた。これだ、と思い引いたカードには、意地の悪そうなジョーカーが微笑みながら居座っていた。
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