吐き出したい想いは



「ごうこん?」

「そう!お願い、1人急に来れなくなっちゃったのー!思いっ切り人数合わせで本当に申し訳ないんだけど、もう皆帰っちゃったし…ね?お願いー!」



それは、掃除当番に当たっていたある日の放課後に起きた出来事だった。

焼却炉にゴミを捨てに行き、ゆっくりとした足取りで教室に戻っている途中、廊下にいた同じクラスの女の子2人に急にそんな頼まれ事をされた。会話から察せる通り、2人はごうこんに私を誘いたいらしい。だが、1人来れなくなっただの人数合わせだのという言葉が中々理解出来ない私は、とりあえずそのごうこんとやらが何かを問いかけてみた。



「そ、そっか、田代ちゃん合コン知らないんだ…」

「でも大丈夫だよ、田代ちゃん普段テニス部といるし!喋れない事無いでしょ!」

「そうだね、そうだよね!あの、ただご飯食べに行くだけだから!」

「ご飯を食べに行く事をごうこんと言うのか?」



すると2人は妙に焦った表情で顔を見合わせたかと思うと、私が予想してたのとはまるで違う返事をして来た。なんだ、てっきりもっと豪勢なものかと思っていたが、ただご飯を食べに行くだけなのか。この子達とは普段から一緒にいる訳ではないが、授業中のグループ活動などではよく一緒になるから、これといって気まずい事も無い。それに今日は部活もオフだし、たまにはあの人達以外の子とも出かけてみるか、という結論に至った私は「じゃあゴミ箱置いて来るから玄関で待っててくれ」と2人に告げ、そのまま早足で教室に向かった。



「あ、田代遅いぜよー」

「ほんとっすよ!早く行きましょ!」

「俺腹減ったぜぃー」

「3人共何をしてるんだ?」

「これからブンと赤也と飯食いに行くきに。田代も行かんか?」



教室に着くと、そこにはいつもの3人組が我が物顔で居座っていた。私以外の掃除当番の人達は、ゴミ捨てに行く前に先に帰ってて良いと言っておいたので、もう此処にはいない。

そして投げかけられた誘いについいつもの勢いで了承の返事を出しそうになったが、危ない、今日は駄目なんだ。だから「すまない、今日は先約がある」と言えば、予想通り3人は不満げな声を上げて来た。あぁ、面倒くさい。



「小川さんと上林さんとご飯を食べに行くんだ」

「小川と上林?そげん仲良くなったんか?」

「なんでも彼女達はご飯を食べに行く事をごうこんと言うらしい」



とりあえず2人を待たせては申し訳ないので、早口で説明しながら鞄を持ち、そのまま教室を駆け足で出る。出る直前に3人の顔を見てみるとなぜかそれはそれは間抜けた面をしていたが、今はそれに構ってる暇も無いので、特に気にせず私は走り続けた。



「合コンーー!!??」



が、階段を下る時に3人分のそんな叫び声が耳に入り、思わず踏み外しそうになってしまったのは内緒だ。さて、何を食べようか。



***



「ちょ、ちょちょゆゆ幸村君!!大変だぜぃ!!」

「何さ、うるさいな」



今日は部活はオフだから学校で自主練でもしていこうかな、と思ったけれど、生憎オフになった理由はコート整備が原因なのでそれも出来ず。だから久しぶりに真っ直ぐ自分の家への帰路を歩いていると、ふいにポケットの中の携帯が鳴った。携帯を取り出し画面を見ればそこにはブン太の名前が表示されていて、こんな時間に一体何の用だろうと思いつつ、普通に通話ボタンを押して電話を繋げる。すると初っ端からそんな大声が聞こえたものだから俺は一瞬驚き、携帯を耳から離した。電話口ではブン太だけではなく仁王と赤也の声も聞こえて来て、一体何なんだとその騒がしさに眉を顰める。



「ブチョ、晴香先輩が合コン行ったんすよ!!」

「…はぁ?」



やっと興奮が収まって来た所で改めて質問をしてみれば、電話を代わった赤也はそんな素っ頓狂な事を言って来た。田代が合コン?あの田代が?いやいや、有り得ないでしょ。焦りとかよりも先にその気持ちが勝った俺は、呆れた口調で「何言ってんの?」と言葉を返した。で、次に代わったのは仁王だ。



「合コンっちゅーもんが何かを知らんまま着いて行ったんじゃ。同じクラスの女子2人に誘われて」

「…どういう事?」

「詳しい事は俺も分からん。でも尾行した結果、ツタヤの近くのファミレスに入ったぜよ」

「男の方西高の奴らっすよ!全然ブチョの方が格好良いっす!」



サラッとストーカーまがいなことをしてる3人は置いといて、経緯がなんにせよ田代が合コンに行っているのは本当らしい。それを理解するなり俺の足先は瞬時にファミレスがある道の方へ向いたけど、数秒悩んだ後、またいつもの帰路に戻った。中々言葉を発さない俺を疑問に思ったらしい3人は、しきりにどうした、どうしたと聞いてくる。



「あいつの事だから、嫌だったらさっさと抜け出して来るだろ」

「でも俺ら以外の奴らには意外と気遣うとこあんじゃん、特に女相手ならよ」

「それに、もし相手の男が先輩の事気に入ったら絶対帰ろうとしても引きとめますって!ていうか気に入られるに決まってるっすよ先輩可愛いし!超可愛いし!」

「幸村、どうするんじゃ」



ブン太と赤也の必死な説得の後に、落ち着いた仁王の声が耳に入る。…そうは言っても、実際俺の今の立場でファミレスに行って何になるっていうんだ。田代個人の事ならまだしも(後、当たり前に相手の男共もどうでもいいとして)、今回はあいつの友達も関わっている。俺が行く事によってその交友関係に傷を付けてしまう可能性があるのなら、それはあってはならない事だ。田代は、俺達以外の生徒とも普通に仲良く出来るようになった事を喜ばしく思っている。面倒くさがりな部分は根本的には変わっていないけれど、色んな人と関わる事の楽しさを知れたんだ。言葉で直接聞いていなくとも表情だけでわかるそれを、俺が壊して良いはずが無い。いや、壊したくも無い。

結局俺は仁王の問いに答えないまま通話を終了させ、携帯を乱暴に鞄に突っ込んだ。家に着いてからは、鬱陶しい髪を後ろでひとまとめにして、部屋着に着替えて、眼鏡を掛けて、さーて明日の宿題でもやってしまおうと思い机に向かったけれど、恐ろしく集中出来なかった。
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