「うーわねえ見てよこれ、真田の顔。流石に酷くない?」

「あの時はいつも以上に泣いていたからな。スピーチ中気になって仕方なかった」



式から数日後。

同棲し始めてから作り始めたアルバムに昨日あいつらから貰った写真を1枚ずつ挟めていると、俺達の目には物凄い泣き顔の真田が映った。次の写真に行けば今度は跡部が号泣していて、そういえばあいつは誰よりも俺達の保護者役だったな、と思い出して笑う。



「にしても、赤也のスピーチは中々泣かせにかかって来たよね」

「思い出話を出されると弱い」

「わかる」



結婚が決まってからというものの、あいつらとは幾度となく学生時代の思い出を語り合ってきた。話しても話しても積もっているその話題は、多分これから先も一生尽きる事は無いだろう。

大学を卒業して社会人になった辺りから、晴香との結婚はずっと意識して来た(その頃からようやくお互いの呼び方も変えたけど、今でもたまーに昔の呼び方に戻ってしまう事がある)。喧嘩はそれなりにしてきたけれど、普通のカップルと違って倦怠期とやらも無く、かといってマンネリ化している訳でも無く、最初から傍にいて当たり前のような存在だった。



「なんかさ、式の準備はバタバタしてたからそんな実感無かったけど、やっぱり感動するもんなんだね」

「全部が初体験だったから目まぐるしかった」

「次は誰かなー、蓮二が今の彼女とこのままいけばなぁ」



晴香が持ってきた紅茶を飲みながら、俺達はそのままソファに座りながらパラパラとアルバムを捲った。ここまで完成させるのには随分時間がかかったけれど、写真を見返しながら作業するのはまぁ楽しくて全然苦ではなかった。そして、今でもこうやってしょっちゅう見返している。



「懐かしい!中3の頃に焼き芋した時のだ!」

「ハロウィンだったな。画質悪い」

「あの頃の携帯画質なんてこんなもんだろ」

「あ、これ」

「河川敷で焼肉は青春だったね、今見ると」

「暑苦しいくらいにな」



学生時代はあんなに悩んでいた事も、今となれば全て良い思い出だ。思い出は美化される、とはよく言うもので、それでも不満は無い。

あの頃は、まさかこの歳になってもこいつが隣にいてくれるなんて思ってもいなかった。小さな事でクヨクヨして、付き合ってからも事ある毎に心配しては空回って、どれだけ苦労させられた事か。



「あ、そういえば、新婚旅行の準備ちゃんとしてる?」

「来週だろう?まだ大丈夫」

「跡部が手配してくれる別荘だから、多分馬鹿でかいんだろうなぁ」

「行くのは2人だけなのにな」

「あいつらにもお土産買ってこないと」

「後でうるさくなる」



ソファから立ち上がった晴香が窓を開ければ、けたたましいくらいの蝉の声が入って来た。それに眉を顰めた晴香を見て俺も立ち上がり、肩を軽く叩いてなだめれば、その足はそのままキッチンに向く。



「何作るの?」

「かき氷」

「俺メロンが良いー」

「わかった」



棚の奥からかき氷機を取り出して、これまた大量の氷をそこにぶちこむ。氷が削られる音と蝉の声が入り混じって、まさに夏の風物詩だな、としょうもない事を考えていると、そこで俺はある事を思い出した。

リビングに行き、箪笥の上の写真コーナーからまだ何も入っていないフレームを手に取り、数ある写真の中でもお気に入りの1枚を丁寧に入れる。それをまたキッチンに戻って晴香に見せびらかすと、一度かき氷を作る手を止めて写真に見入った。



「良く撮れてる」



俺達を中心に全員が集まっているこの写真は、つい先日の結婚式で撮ったものだ。全員が清々しいくらいの笑顔で、昔からなんら変わらない、見ているこっちまで笑ってしまうような笑顔。

それからまたかき氷を作り始めた晴香を見て、なんだか無性に抱き着きたい衝動に駆られた俺はその背中を後ろから抱きしめた。精市君、暑苦しい。この雰囲気でいらない事を言った晴香の唇を塞ぐとほのかにメロンの味がしたので、お前つまみ食いしただろ、と言えば晴香はバレたか、とふてぶてしく呟いた。

そんな、なんて事無い、ある晴れた日曜日。



20130412 fin.

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