―――切原赤也、25歳、夏。



「あ、これは講義を抜けて海に行ってクラゲを投げ合った時の2人の写真です!後他にも色々あるんですけど、思い出を語り出せばキリがありません!加えて、2人がこうなる事はもはや当たり前だと思っていたので、特に驚きの気持ちは無く、ただただ祝福の気持ちだけが俺の中にはあります。俺だけじゃなく、皆だってそうっすよね!」



俺の問いかけに皆は拍手や大声で答えてくれたりして、ブチョと晴香先輩の方を見れば2人は珍しく照れ臭そうな顔で俺の事を見ていた。

今日は、2人の結婚式だ。

付き合ってから約8年間、2人は喧嘩こそはあったものの大きな障害は無く、お互いの仕事が安定してきた今年になってようやく入籍した。久しぶりに開かれた飲み会でその報告があった時は、全員飛び上がる勢いで喜んだ。



「これまでも何度も言ってきましたが、今回はご結婚、本当におめでとうございます。これからもまた皆で飲みに行ったりしましょうね!約束っすよ!」

「あぁ、わかってるよ」



先輩達は最初このスピーチを柳さんか跡部さんに頼む予定だったらしいけど、俺はその予定を全力でお願いして覆した。もっとも、2人共渋る事無く(釘は刺されたけど)良いよと言ってくれたから、無理矢理ではないはず。

式には立海は勿論、氷帝と四天宝寺の人達も来ている。8月下旬、今日は忘れもしない、俺達立海が高校の頃に全国大会で優勝を勝ち取った日だ。無難に2人の記念日にでも挙げるのかなと思ってたけど、まさかこの日に持ってくるとは思ってもいなかっただけに、更に声を上げて喜んだのはついこの前の話。



「続いては、ご両親への花束贈呈です」



司会者の柳生さんがそう言うと、さっきお色直しで和装からドレス、タキシードにそれぞれ着替えたブチョと晴香先輩は、凛とした表情で椅子から立ち上がった。俺のスピーチで緩んでた雰囲気が一瞬にして締まって、音楽もそれに合わせたものになる。



「あー。なんか俺やばいかも」

「堪えとるんじゃからやめんしゃい」



席に戻れば、既に上を向いて両目を抑えてる丸井さんと、俯きながら丸井さんの足を叩く仁王さんがいた。おかえり、と出迎えてくれた柳さんにただいまっす、と返事をしてから、もう1回2人の方へ目を向ける。



「お父さん、お母さんへ」



ブチョが晴香先輩の口元にマイクを持って行き、先輩は両手で手紙を持ち、会場内には先輩の声だけが響く。



「こういう手紙を書いた事は一度も無いので、正直何を言えばいいのかよくわかりません」



先輩らしい文章に四天宝寺の人達はなんでやねん!とツッコんで、ブチョもほんとにね、と小さく呟いていた。でもふざけた雰囲気はそれまでで、次に話し始めた先輩の声は少し、ほんの少しだけ詰まっていた。



「面倒くさがり屋で無感動な私と真逆のお父さんとお母さんは、うるさいなと思うくらい明るくて元気で、時にはそれが鬱陶しく感じた事もありました」



別に俺は先輩のお父さんでもお母さんでもないっつーのに、そんな聞いた事も無いような声でそのまま話し出すもんだから、丸井さんと仁王さんと俺の涙腺は既に崩壊しかけていた。真田さんは言うまでも無く大崩壊中だ。氷帝テーブルではあの跡部さんも唇を噛み締めていて、更に鼻の奥がツウンとなる。



「でも、私が初めて自分から何かをやろうと思い立った時は、まるで自分達の事のように全力で喜び、協力してくれました。毎朝どれだけ早起きしても台所に行けばお母さんは暖かい朝食を作ってくれていて、お父さんは必ず行ってらしゃい、と私を送り出してくれました」



晴香先輩がマネージャーになってくれた時の驚きと感動は、今でも鮮明に覚えている。マネージャー希望者の列に何食わぬ顔で並んでいた先輩を、俺達は全力でツッコんだっけなぁ。

いつだって晴香先輩は自分の思った通りだけに動いて、知らぬ間に色々な事をやってのけていた。そこらへんはほんとにブチョとよく似てて、もっと頼ってくれてもいいのに、って何度思った事か。



「自分の気持ちを言葉や表情に表すのが下手なので、時には困らせた事もあると思います。ですが、どんな時も両親は私に沢山の笑顔をくれました。いつだって私の事を尊重してくれまし、た」



そこで初めて先輩が言葉を詰まらせたので、泣かないようにと見ていたシャンデリアから先輩に視線を移す。ブチョが手渡したハンカチで口元を抑えている先輩は、次の言葉を話し出すまでに少し時間がかかった。

そっからの話は、ぶっちゃけよく覚えてない。何故なら俺の涙腺が真田さんと同じく大崩壊しちまったからだ。司会者の柳生さんまで号泣してるし、ジャッカルさんと柳さんも軽く目頭を抑えている。他のテーブルからも鼻を啜ってる音が聞こえて、なんかもうそれどころじゃなくなっちまった。



「最後に、私達を今まで支えてくれた全ての人に、大きな感謝を捧げます。本当に本当にありがとうございました。これからも変わらずよろしくお願いします」



かろうじて最後の締めくくりだけは聞こえたので、力の限り拍手をすれば思いの外でかかったのか、ブチョと先輩は俺の方を見て笑った。その笑顔にまた涙が出てくる。

スピーチでも言ったけど、この2人が別れるなんてまずありえないとは確信していた。だから現に2人はこうして幸せそうな顔を浮かべているのに、いざ2人が本当に結婚するとなると色んなもんがバーーッて湧き出てくる。散々先輩に手こずったブチョと喧嘩した事や、学祭で2人きりになるように仕組んだ事、皆で2人の初めてのクリスマスデートの作戦を立てた事、ブチョのチョコ作りに必死で俺達に作ってくるのを忘れたバレンタイン、卒業式にやったブチョのサプライズ誕生会。1つ1つが走馬灯のように俺の頭を駆け巡った。

とそこで、柳生さんが閉宴の言葉を言って、2人が退場する時となった。張り切って着てきたスーツで顔をゴシゴシ拭いて、また前を見る。



「不安定な2人を見ているのも面白かったが、やはりあの顔が1番似合うな」



柳さんの言葉に俺達は皆深く頷き、幸せそうに笑う2人の写真をまた1枚撮った。あの頃2人の事で悩んでいた俺にこの写真を見せたら、自分の事ながら大声あげて喜ぶんだろうなぁ、と思った。
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