あの後については、一言で表すならばどんちゃん騒ぎそのものだった。顔面ケーキは言わずもがな、再び出てきた料理の争奪戦、跡部がこの日の為に特別に発注したという馬鹿でかいツイスター、などなど、年甲斐もなくトランプで本気で盛り上がったりもした。

そうしているとあっという間に夜になり、今日は元々泊まりの予定だったから俺達は皆パジャマに着替えた。白石は普段寝る時はパンイチらしいけど、流石に田代の事を配慮して今回はちゃんと服を着てもらった。跡部のネグリジェにはかなり笑ったなぁ。

で、お約束の枕投げ大会でひとしきり騒いだ後、何故かその後は写メ大会が始まった。動画も沢山撮った。謙也と向日の変顔には相当笑わせてもらったし、普段はクールな財前君の半目ミスショットもばっちり撮った。

飽きずに騒いで騒いで騒ぎまくって、午前2時。その前からちらほら寝始める奴はいたけど、そこでようやく全員が眠りについた。最後まで起きていたのは俺、蓮二、忍足、千歳で、寝落ち直前に見た時計は確かにその時刻を差していた。



「…重い」



そうして今、午前4時53分。寝苦しさに襲われて目を覚ますと、俺の腹には赤也の左足がどどーんと乗っていて、俺はいびきをかいている赤也のデコを容赦なく叩いてから、それを退けた。お前起きたら覚えてろよ。

すっかり目が覚めてしまったので、そのまま渇いた喉を潤す為にお茶でも飲もうと立ち上がると、割と最初の方に寝たあいつの姿が見当たらない。あいつがいた布団はもぬけの殻で、すっかり遠山君に乗っ取られそうな勢いだ。



「起きたのか」

「…あ、いた」



何処行ったんだよ、まさか帰った?と不安になったのも束の間、田代は蓮二から借りたちゃんちゃんこを羽織って、縁側に座っていた。机にあったコップにお茶を注ぎ、それを2つ持って俺も縁側に行く。



「いつから起きてたの?」

「ついさっき。金ちゃんの足がお腹に乗って、苦しくて起きた」

「俺も、あいつのせいで起きた」



未だにでかいいびきをかいている赤也を指しながらそう言えば、田代は目を細めて楽しそうに笑った。それにつられて、俺も思わず笑顔になる。

3月のこの時間はまだ少し薄暗くて、肌にあたる風も冷たい。でも、田代と2人の空間を自分から抜け出そうなどという気は更々無い。



「ていうかお前ら、これいつから企画してたの?」

「氷帝と四天に話を持ちかけたのは1ヶ月前からだ。日程とか全部決まったのは1週間前」

「凄い行動力だよね、あいつらだって卒業式直後だっていうのに」

「…皆で、話してたんだ」



いつもならもうとっくに真田は起きている時間だけど、今日は寝る時間が遅かったから流石にまだ寝ている。かけている布団は少しも乱れてなくて、隣で寝ている寝相が悪い宍戸とのギャップが中々シュールだ。



「絶対に、人生で最高の誕生日にしてやろうって」



まだ少し寝惚けた頭で聞いていたせいもあり、その言葉はあまりにも不意打ちすぎた。お茶を飲む口を止めて、隣にいる田代にゆっくり視線を移す。



「約束、忘れてないだろうな」

「え、っと」

「何かあったら絶対飛んでこないと、絶対嫌だ」



確かあれは、立海大学に見学に行った日の事だ。不安と期待に染まった田代は、今みたいにこうやって、真っ直ぐ俺の目を見据えながら同じ事を言った。

俺が田代に何かあって飛んで行かなかった事ある?そう聞けば、田代は小さな声でさぁ、と言う。



「…ねぇ田代、目、瞑って」

「?何故だ」

「なんでも」



眉間に皺を寄せて怪訝な表情を浮かべた田代は、渋々と言った感じでゆっくり目を閉じた。それを見て、自分が今何をしようとしているかようやく自覚して、一気に心臓が早くなる。

ゆっくり近付いて、近付いて、近付いて、



「…やっぱ無理だ!」

「うわっ」



後ほんの数ミリ、という所で俺は負けた。きっとそれをしてみせたとしても嫌がられる事は無いだろうけど、直前に田代の顔を確認してしまったのがまずかった。やっぱり駄目だ、まだ俺達にそれは早い。というより、情けない話だけど俺が色々とそれどころじゃない。

勢いに任せて田代に抱き着けば、田代は俺の重さに負けてそのまま後ろに倒れこんだ。急な事にびっくりして大層批判されたけど、もうこっちはいっぱいいっぱいなんだから見逃して欲しい。



「なんなんだ!頭痛いんだが」

「お前が悪いんだよ!」

「理不尽すぎる!」



しばらくしょうもない言い合いをしていると、田代は諦めたのかそのまま不貞腐れたようにそっぽを向いた。でも、なんだかんだで俺の腕の中からは抜け出そうとしない。



「あいつら…この俺様をもどかしくさせるとはやるじゃねーの」

「まだまだ道のりは長いな、精市」



未だに心臓は中々落ち着いてくれないけど、田代とこうしていると段々と安心感が出てきて、俺達はまた眠りついた。その前にうっすらと見えた朝日は、多分俺が今まで見たどの朝日よりも格別に綺麗だった。そんな、人生最高の誕生日、の翌朝。
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