「おっじゃまするっすー!」



フランクな挨拶をしながら家に入った赤也に、真田が馴れ馴れしすぎるだのと喝を入れ、2人の喧嘩を聞きながら俺達もお邪魔する。



「皆、いらっしゃい。それに、卒業おめでとう」



俺達を出迎えてくれたおばさんは相変わらず綺麗で、今日は狭い部屋でごめんね、と一言謝罪を入れて来た。なんでも、いつも蓮二の家に来たら使っている大広間は、今日はお祖母さんがお茶会をやってるからとかで使えないらしい。とはいえこの家は中広間でも充分な広さだから、何の申し分も無いんだけどね。俺達はおばさんの言葉におかまいなく、とそれぞれ言葉をかけ、とりあえず手を洗う為洗面所に並んだ。この習慣が無い赤也はさっさと部屋に行こうとしてて、また真田に怒られてた。いい加減うるさい。



「今日はおばさんが腕によりをかけて作ったの。おかわりもあるから、どんどん食べてね」



中広間に着くと、おばさんが作ったという豪勢な和食が机いっぱいに広げられていた。この光景には全員が笑顔になり、田代に至っては目が輝いている。俺達はそれぞれ自分の食器を運び、おばさんに再度お礼を言い、いよいよパーティーの始まりだ。



「んじゃ改めて、卒業おめっとー!これからもよろしくー!」



ブン太の掛け声と共にジュースやお茶の入ったグラスを合わせ、いつも通り凄まじい勢いで料理を減らして行く。うっわ、この白身魚うっま!

それから俺達は当たり前のように料理をおかわりし、卒業だからと言って特別な事も無く、馬鹿っぽい会話を交わして楽しんだ。真田の答辞はマイク無しでもうるさかったとか、授与式で登壇する時実はちょっと躓いたとか、大地讃頌の歌詞を間違えた、とか。そんないつでも出来るようなくだらない話を、飽きもせずずっとしていた。



「いつも通り賑やかですねぇ。お茶会終わったので、よければ広い方へ移動して下さいな」



とそこで、蓮二のお祖母さんが戸を開けてわざわざそんな事を言いに来てくれた。勿論此処でも充分寛げるのだけれど、折角の好意を無駄にする訳にはいかない。だから俺達は一度机の上のものを片付け、荷物はそのままにしてぞろぞろと廊下に出た。出る前にちらりと時計を見ると、もう結構な時間が経ってる事が分かって、その時間の流れの速さにやや驚く。



「あ、ちょい俺トイレー」

「俺もっす!連れションしましょ!」

「んじゃ田代もな」

「何故私まで」



まるで自分の家のように好き勝手やってる2人と、そんな2人に巻き添えを食らった田代を置いて、俺達は大広間に向かう。



「精市、まだ胃袋に余裕はあるか」

「当たり前じゃん。ていうか、おばさんにしてはむしろ量控えめだったんじゃない?いつも俺達の事力士だと思ってるんじゃないか、ってくらい作ってるじゃない」

「確かにな」



隣に来た蓮二にそう言えば、こいつにしては珍しい、優しい笑顔を返される。え、何。



「そういえば精市、言い忘れていたが」



仁王が襖を開けると同時に、背後からドンッ!と押され、一瞬にして頭が真っ白になる。ちょっと待て、



「誕生日おめでとう」



―――なんだよ、これ。

正直、予想はしていた。俺の誕生日にこいつらが何も仕掛けてこないはずはないと、ちゃんとわかってはいた。だから今までこいつらが俺の誕生日について触れて来なくても、どうせまた何か企んでるんだろ、ぐらいにしか思ってなくて、だから、ちょっと、



「めでてぇじゃねーの!」

「おめでとさん、幸村」



なんでお前らまでいるの。

背中に引っ付いているブン太と赤也に思わず視線を向ければ、2人は大成功、と声を揃えてピースして来た。気が動転して目に入ってなかったけど、壁にはでかでかと横断幕までかけられている。この光景は昔部室でやった俺の復帰祝賀会と似てるけど、今回はそれよりももっと大規模な、特別なものだ。



「いやー、ほんま跡部が自家用飛行機出してくれんかったら来れんかったわ!」

「ハードスケジュールすぎて疲れたっすわー。卒業式後すぐ飛行機とか」

「それで間に合ったんだからえぇやないのっ!」

「小春と空の旅、幸せやったわぁー」

「ユウジはん、主旨ズレとるで」

「スリルがあって面白かったとねー」



久しぶりに会う四天宝寺は何1つ変わっていなくて、マイペースすぎる会話に他の奴らは笑ってる。そんな中白石と遠山君は俺の真正面に立ち、はい、とやけにでかい包みを渡して来た。



「はるばる大阪から来た甲斐があったわ。自分のその顔、レアやろ?」

「作戦大成功やーー!」



包みからは既にあの食い倒れ人形がにょっきりと顔を出していて、もうネタバレも何も無い。俺は2人の言葉に噴き出すように笑い、ぴょんぴょんと跳ねる遠山君の頭を軽く撫でた。

四天の次は氷帝だ。芥川君はブン太と赤也の真似をするように俺の背中に飛び乗ってきて、一気に足がガクンと下がった。そんな俺を気遣って、忍足と鳳君が3人を背中から降ろしてくれる。



「俺達も卒業式終わってそっこー来たんだぜっ!」

「この作戦を聞いて以来、ずっと楽しみにしてたんです!ねっ日吉!」

「俺を巻き込むな」

「ほんま式中もずっと落ち着かんくてなぁ。この距離なんにジェット機で来たんやで」

「ジローは特にね」

「どうせ四天着くの待ってたから、意味無かったんだけどよ」

「こんな全員で集まれるの久しぶりじゃん!俺もうわっくわくだC!」



自分で意識せずとも笑いが込み上げてきて、もう前がよく見えない。



「今日はお前にとって大事な日だ。忘れられねぇバースデーにしてやるよ」



跡部がそう言ってパチン!と指を鳴らすと、奥の方から樺地がこれまた馬鹿でかい包みを運んで来た。ていうか、それも観葉植物モロに出てるんだけど。何回ネタバレすれば気が済むの。

笑いが止まらない。どいつもこいつも馬鹿ばっかりで、たかが1人の誕生日の為にここまで張り切るなんて、本当に馬鹿だ。



「幸村君」



後ろから聞こえた俺を呼ぶ声に、一瞬で笑いが収まる。



「おめでとう、ありがとう」



シンプルな言葉を続けて言った田代の手には、恐らくこいつらが作ったのであろう特大ケーキがあった。少しいびつで、ぶっちゃけここまで着色料を使ったお菓子はあまり好きじゃないけど、それでも早く食べたくて仕方ない。こいつらと一緒に舌を変な色にして爆笑して、真田に顔面ケーキとかさせちゃって。

でも、その前に。



「お前ら、愛してる」



ケーキは近くにいた柳生に持たせて、俺は田代を思いっきり抱きしめた。そしてそのまま高く抱き上げて若干叫ぶようにしてそう言えば、こいつらは揃いも揃って歯を剥き出しにして笑った。なんか、夢みたいだ。
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