「卒業おめでとう!まっとうな大人になれ!以上、雑談開始!」



そしてなんだかんだあっという間に式は終わり、教室に戻り。元々しけた空気は似合わないクラスだとは思っていたけど、担任がここまであっけからんとしていると実感は更に沸かない。現にクラスで泣いているのは女子数名だけで、後は皆いつも通り雑談していた。



「さっぱりしとるクラスじゃのう」

「まぁ、これくらいが逆に丁度良いんじゃないか」



仁王とジャッカルの会話に他の奴らも頷いて、それと同時に卒業アルバムを閉じる。どうやら皆、全員分のメッセージを書き終えたみたいだ。

校内に卒業式特有のクラシックが響き始めた所で、皆立ち上がって廊下に整列する。ここまでさっぱりしているのはやはり俺らのクラスだけなのか、廊下に出てみると多数のすすり泣く声が耳に入った。



「今年は赤也泣いてっかなー」

「なんとも言えないな。何せ、この後も集まるのだから」



蓮二の言う通り、今年はこのまま蓮二の家で卒業パーティーを行う事になっている。だからいくら赤也でも、さっきの真田の答辞からずっと泣き続けてる事は無いだろう。

と、思ったけど、やはり期待を裏切らないというか。



「ぜんぱいだぢぃいい!!」



下級生が作ってくれた花道を歩く。つい今朝までは俺も大人になったんで!とか威張ってた奴が、今じゃこの有様だ。むしろ中学よりも酷くなってるんじゃないだろうか。鼻水をグズグズに垂らして目をボンボンに腫らしている赤也は、俺達の輪に飛び込んできて、その中でも田代に思いっ切り抱きついた。



「切原君、いい加減このタックルまがいの抱擁止めた方がいい」

「とうとう言ったのう」

「やっぱり寂しいっすよぉおおおぉ」

「この後もすぐ遊ぶではありませんか。折角のお顔が台無しですよ」



柳生のあやしも効かず、しまいには真田まで貰い泣きして場は瞬時にカオスになった。真田泣き顔汚いし。ちなみに、俺は勿論その光景を写メに収めて爆笑している。

そうしてごった返ししている玄関前を切り抜け、俺達は赤也のHRが終わるのを待つ為に校門前に溜まる。一応記念として校舎を写メろうと携帯を向けると、それを邪魔するようにブン太が入って来て、次に仁王、最後に2人に引っ張られるようにして田代が入って来た。もはや校舎なんて全然見えてないけど、仕方ないからシャッターを切っといてやる。この田代ブスだなぁ。



「そういえば田代!最後にプーちゃんと記念撮影しなきゃいかんぜよ!」

「それは重要だ」



猫好きの2人がそう言い出したのを発端に、俺達まで2人と一緒にプーちゃん探しをする事になった。普段静かな所にいるあの猫が、この喧騒の中出てくるとも思えないけど。

なんていうのは杞憂だったのか、プーちゃんは思いの外早く発見した。部室裏だ。いびきをかいて寝ていたプーちゃんをなるべく起こさないように近付いたけど、そこはやっぱり野良猫。少しの音で瞬時に目を覚まし、寝ぼけた顔を見せた後に俺達の元へ擦り寄ってきた。



「お前達が1番可愛がっていたからな。2人で撮ると良い」

「サンキュ、参謀」

「あ、ちょっと待って」



その時、蓮二がシャッターを切る直前、田代は鞄を何やらゴソゴソと探り始めた。そしてそこから出てきたのは、



「これも一緒に」



俺がクリスマスにあげたポーチだ。俺がそれをプレゼントした事は全員知っているのか、主に馬鹿2人からニヤニヤと茶化すような視線を向けられる。腹いせに真田の足を踏んでおいた。

ポーチとプーちゃんを隣に並べ、それらを挟むように仁王と田代がしゃがむ。カシャ、とシャッターを切った直後に背後から赤也の元気な声が聞こえて来て、俺達は全員で笑った後その場を後にした。ぶにゃあ、と聞こえた濁った声に振り向くと、プーちゃんは俺の目を見てまたぶにゃあ、と鳴いた。
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