なんていう甘い雰囲気も去る事ながら、2月下旬。校内は完全に卒業式ムード一色で、3年生は連日、自分の荷物を徐々に持ち帰る日々が続いている。



「俺この教科書、結局3年間1回も家に持って帰らなかったぜぃ」

「真田が聞いたら怒りそうな台詞じゃのう」

「丸井!どういう事だ貴様!」

「うーわ、時既に遅しってやつ?」



教室の後ろにあるロッカーの前で話していた丸井と仁王の間に、真田は鼻息を荒くし怒りながら割り込んだ。それから結局真田の説教が始まり、仁王は逃げるように2人の場を後にする。

次は誰の所へ行こうかな、と仁王がフラフラしていると、途端に教室内にドターン!と誰かが転ぶ音が響いた。その直後に幸村の爆笑する声が聞こえ、仁王だけではなくクラスメイト全員がその音のする方に目を向ける。



「傑作だよ!こんなに引っかかるなんて!」

「ふざけるな!」



そこには、机にぶつかった挙句床に尻餅をついている田代と、それを指差して笑っている幸村の姿があった。彼の目には涙まで溜まっており、何がそんなにおかしいのか興味を持った仁王、それにテニス部メンバーは、すぐに2人の傍へ駆け寄った。



「見てよお前ら、田代ったらびっくりして尻餅ついてやんの」

「そんな物仕掛けられれば誰でも驚くに決まってるだろう!」

「うおっ、なんだよそれ!?おもちゃ!?」

「うん、リアルでしょ」



どうやら2人がこうなっている原因は、幸村が晴香のロッカーにあの黒い魔物、通称Gのおもちゃを置いておくといういたずらを仕掛けた所から来ているらしい。丸井はそのGのリアルさに興味を示しており、虫が苦手な柳生はちゃっかり遠目からその様子を見ている。未だに笑っている幸村の代わりに柳が晴香の手を引き立ち上がらせ、ようやくその場は落ち着きを取り戻した。



「お前こいつ苦手だもんねーほれほれー」

「近付けるな!」

「…つーか、おまんら」



とそこで、じゃれあい続ける2人を見て、仁王が一言。



「仲ええのう、ほんとに」



その言葉により状況を把握したのか、2人は取っ組み合っていた手をピタリと止め、ゆっくりと周りを見渡した。教室内の視線は全て2人に向けられており、テニス部は言わずもがな、自分達を見ている全員は誰もが微笑ましそうな表情を浮かべている。

それを見て一気に気恥ずかしくなったのか、2人は即座に距離を置き各々の鞄にロッカーの物を詰めだした。あからさますぎる照れ隠しに、全員の頬が更に緩んだのは言うまでもない。



***



そして、卒業式前日。中学の頃は高校も一緒と分かっていても莫大な寂しさが押し寄せていたが、今は彼らも大人になったのか、そこまで物思いに耽っている様子は見られなかった。



「あーあ、また1年置いてけぼりっすよー」

「1年なんてあっという間だぜ。大学入ったら4年だしな」

「そう考えると、なんで中学の頃はあんな寂しかったのかが謎だよなー。思い出すと若干恥ずかしいぜぃ」

「まぁ、そういうものですよ」



切原、ジャッカル、丸井、柳生は、そんな風に思い出話をしながらカゴに食材やら調味料やらを投げ入れた。ちなみに場所は輸入食料品店で、普通のスーパーなどよりも見た目が凝った食料品が沢山陳列されている。



「つーか俺ら3人はまだ分かるけど、なんで赤也まで調理係なんだよ!」

「良いじゃないっすかー!俺、味覚には自信あるっすよ!」



不満をもらす丸井に、切原はかまってと言わんばかりに引っ付く。そんな彼に対し丸井は払いのけるようにシッシッ!という動作を見せたが、傍らでそれを見ているジャッカルと柳生は暖かく見守るばかりだ。気分はさながら保護者だろう。

そうして充分な量の食材を買ったところで、彼らは1人2つ袋を持ち店を出た。外に出てからは自転車組の丸井と切原がカゴに全ての荷物を詰め、徒歩組の残り2人に合わせるように自転車をこぐ。



「あー早く明日になんねぇかなー!」

「中学の頃はあんなに卒業式が来るのを嫌がってた人物とは思えませんね」

「だーから、もう昔話はいいですってば!」

「確かに、今はそれ以上に楽しみがあっからな!」



その丸井の言葉を合図に、自転車組はテンションが上がったのかそのまま徒歩組を置いて目的地に向かい走り始めた。自転車のスピードに合わせて走る気にもならないので、徒歩組は依然変わらぬ速度で歩く。



「いつまでもこうしていられると、大層良いものですね」

「ここまで来たら、もう何も変わんねぇだろ」



それもそうですね。そう言った柳生の言葉は、自転車組が歌い始めた声によってかき消された。
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