撃ち抜かれたのは左胸



大晦日は夜中から皆で近くの神社に行き、盛大なカウントダウンと共に年を越した。おみくじは見事大吉で柄にもなく喜んだけど、真田君と同じなのは少し癪だった。

学校が始まってからすぐにあったテストも無事乗り切り、3年生の私達はこれでようやく安心して卒業を待つだけの身となった。切原君が、誰か1人くらい留年してくれたっていいのに、と無理難題なわがままを言い出し、それに全員が苦笑したのはまだ記憶に新しい。

そして、テストが終わると3年生の登校日は激減した。進学が決まっている私達にとってその期間はもはやただの休暇でしかなくて、事あるごとに集まっているのは言うまでもない。自分でも馬鹿だと思う。



「うおっしゃ!出来たぜ!」

「うっひょおーうんまそー!!」



そんな今日は、外へは行かずに丸井君の家に集合している。なんでもお菓子を振舞ってくれるとかで来たのだが、彼の部屋で待っていた私達の元に現れたケーキは、予想に反して大きく、また美味しそうだった。学校終わりに一足遅れてやって来た切原君は、それを見てダラダラとヨダレを垂らしている。汚い。



「赤也、ヨダレを拭きなさい」

「丸井君、また腕を上げたのではないですか?」

「当たり前だろぃ!俺様の美技は日々進化する!」

「おまんは跡部か」



聞き覚えのある台詞が耳に入った所で、早速ケーキを食べる事にする。ちなみに種類は王道のショートケーキなのだが、デコレーションがとても丁寧で、お店のものと言われても疑わないくらい綺麗だ。

柳君が取り分けてくれるのを待ち(丸井君はもはや食べる側でスタンバイしてる)、皿に乗せられたケーキを間近で凝視する。すると隣の幸村君から見すぎ、と軽く頭を叩かれたが、そんな事は構ってられない。



「マジで美味いっす!口の中でハーモニーが奏でられてるっす!」

「下手なグルメリポーターだなー。つーか食いながらしゃべんな!」

「はしたないぞ赤也!」



興奮状態なゆえ丸井君と真田君の注意をロクに聞いていない切原君に、桑原君は自分のポケットからティッシュを出し、彼の口元を拭ってやった。さすが素敵だ、桑原君。

それにしても、このケーキは本当に美味しい。多分、丸井君が今まで作ったお菓子の中で1番美味しい気がする。そう思いながらパクパクと口に入れてると、後もう少しで無くなる、というタイミングでまた新しいケーキが皿に乗った。



「ありがとう、幸村君」

「こうやってたらいつまでも食べ続けそうだよね、お前」

「そのつもりだ」



本当はその後ももう何個か食べたかったが、丸井君と切原君を始め、珍しく仁王君もおかわりをしたので結局2個しか食べれなかった。全然食べ足りない。



「なんかさー、甘い物食べたから次しょっぱい物食べたくない?」

「お前は絶対そう言うと思った」



すると、なんとタイミングの良い事に幸村君がそんな提案をしてくれたおかげで、次は全員でご飯を作ることになった。時間的にもまぁ少し早いがちょうどいいし、お母さんにご飯はいらないとメールをしておこう。

この事態を予測していた柳君は、私達が全員で作っても混乱しない、簡単かついっぺんに沢山作れるレシピを何点か調べてきていた。用意周到すぎる。



「このレシピの中でうちの冷蔵庫にあるもんで作れるものはー…やっぱ王道にカレーだな!」

「そのうち、冷蔵庫の中身を使ってしまったお詫びとして何かお持ちしなければいけませんね」



という訳で、柳生君の苦笑と丸井君の意気込みを区切りに、私達はキッチンへ向かうべく部屋を出た。ちなみに、今日丸井君の両親はどっちもいないらしい。

皆でぞろぞろとキッチンに行くと、ちょうど遊びから帰って来たのであろう丸井君ジュニア達がそこにいた。それぞれ8歳と11歳に成長した2人は、お揃いのランドセルをしょってギャーギャーと騒ぎながら私達の輪に入った。



「まさにーちゃん!」

「相変わらずおまんらは元気じゃのう、っていててて、髪引っ張るんじゃなかー」

「ジャッカル!ジャッカル!」

「俺は髪無いからって頭をはたくなよ」

「おいお前ら、俺を忘れんなよ!」



どうやら2人はそれぞれ仁王君と桑原君に懐いているらしい。切原君ともまぁ遊んでるといえば遊んでいるのだが、彼が相手だとどっちが遊んでもらっているのかわからなくなる。ちなみに、真田君の所へは一切近付こうとしていない。当たり前か。



「お前ら、先に手洗って来い!今日はカレーだぞー!」

「よっしゃ!俺ブン兄ちゃんの作るカレー好き!」

「俺もー!」



と言いつつも、なんだかんだで最終的には本当のお兄ちゃんに収まるらしい。丸井君は2人の頭をガシガシと撫でると、そのまま背中を押して洗面所に向かわせた。



「ほんと、家ではちゃんとお兄ちゃんやってるんだね」

「幸村君、家ではってどういう意味ー?俺はいつでも面倒見良いだろい!」

「面倒見が良いというか、同じ目線で馬鹿をやってるだけというか」



うっかり本音が漏れた柳君に丸井君がつっかかり、珍しく柳君がよろけた。それを見た柳君大好きな切原君は腹を立てたのか、次は彼が丸井君につっかかり、そのまま2人は戦闘体勢に。だからもう放っておく事にする。



「馬鹿2人は馬鹿やってるから、俺達だけで作ろう。お腹空いた」

「そうだな。弦一郎、お前はあの馬鹿達を監視してくれ」



面倒事を押し付けられた真田君は些か不満な表情を浮かべたが、それも二強に凄まれると何も言えないのか、大人しくリビングに行った2人の後を追いかけた。声が更にうるさくなっているのを聞く限り、多分ジュニア達も参戦しているのだろう。元気だなぁ。



「おぉ田代、意外と手際ええんじゃのう」

「田代は、昔誰かさんが料理を始めるよう進めてから、ちゃんと家でも練習しているからな。なぁ精市」

「…うるさいんだけど」



…さぁ、カレーだカレー。
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