乗り物を一通り制覇した後は、そのままの流れで動物園に行った。動物園自体はそこまで大きくなかったけど、深海魚を飽きもせずジーッと見つめたり、爬虫類をなんの抵抗もなく抱いたり、キリンの結構グロテスクな舌を見て思わず俺の腕を掴んで来たりといった、いつもは見られない田代の色んな表情を見れたから全然良しとする。

それから閉園時間になり、そろそろ小腹が空いて来たので予約したレストランに行く事にした。別にそんな高級って訳ではないけど、高校生が行くにはちょっと生意気に思われるような所。まぁ俺も田代も大人っぽいし、そんな事で萎縮なんて全くしないけど。



「此処か?」

「うん」

「なんか高そうだ」

「それなりにはするかな」

「じゃあちょっと待って、ATMに寄りたい」



この期に及んで糞真面目に馬鹿な事を言い出した田代には、軽くデコピンをお見舞いしてからさっさと歩きだす。田代のバーカ。

不服な表情を浮かべている田代をスルーして扉を開けると、クリスマスなだけあって店内は若干混んでいた。それでも店員は笑顔でいらっしゃいませ、と俺達を出迎え、予約していた窓際の席に案内された。田代が夜景に興味が無いのは知っているけど、今日は雰囲気を楽しむ日だ。あるのと無いのではある方が良いに決まってるし、現になんだかんだ見入ってるみたいだし。



「凄い電飾だな」

「現実的な事言わないの」

「失礼します。本日はご予約誠にありがとうございます」



身も蓋もない事を言い出した田代に軽くつっこんでから、料理の説明に来た店員の話に耳を傾ける。感じの良い初老の男性の丁寧な話し方は、それだけで店の高級感をかもし出しており、それに対して田代は少しだけ緊張してきたのか肩を強張らせた。ほんの少しの表情の変化を、こうやってすぐに見抜けるようになったのはいつからだったっけな。そんな事をしみじみと思いながら、運ばれてきたドリンクでとりあえず乾杯する。



「何緊張してるのさ」

「あんまりこういう所慣れてない」

「たまにはいいじゃん。俺、この店美味いから好きだよ」

「じゃあ良い」



それから徐々に本調子を取り戻した田代は、次々と出てくる料理の一品一品に目を輝かせていた。早食い、大食いだけど綺麗な食べ方をする田代の姿は、いつ見ても気持ちが良い。だから俺の分のも少し取り分けてやれば、瞬時にそれは消え去った。食い意地張ってるなー。



「これ美味しい」

「こっちは?」

「食べる」



特別な会話を交わす訳でもないし、これといったひねりもないベタなデートだけど、それでも俺にとっては凄く心地の良い空間だった。いつもより綺麗な田代と一緒にこの雰囲気に乗っかる事が、今日は何よりも重要だった。

そうして周りのカップルよりも速い速度で食事を終え、クリスマス限定だというケーキを食べてから、俺達はそこを後にした。外に出ると日はもう完全に落ちていて、窓からも見えたイルミネーションの周りにはカップルがうじゃうじゃいる。身を寄せ合ってうっとりとした表情を浮かべているそいつらを見て、俺達は一度目を合わせるなりすぐに早足で歩き出した。流石にこの雰囲気には乗っかれない。

田代の家の方面に向かってしばらく歩くと、これまでも何度か一緒に来た事がある公園に辿り着いた。ここからは住宅街のイルミネーションしか見えないけど、多分俺達にはこれくらい小規模な方が合ってる。



「寒くない?」

「カイロ持って来た」

「そっか」



ブランコに腰を降ろして一息吐いた所で、昨日の話やカウントダウンはどうするか、といった会話を交わす。こんな時に雪なんか降られたら寒くて堪ったもんじゃないから、ホワイトクリスマスとかいうのにならなくて良かったと思った。

で、ふと腕時計に目をやると、時刻はもう20時を回っていた。昨日あの場面を見られたばかりだから今日あんまり遅くなってもアレだし、そろそろ帰るとするか。いつも思うけど、田代といると本当に時間が過ぎるのが速い。あいつらと一緒にいてもそうだけど、田代の時は桁違いだ。そんな事思いながら立ち上がろうとすると、急に田代は俺のアウターを引っ張ってもう一度座らせてきた。突然の事に驚き、目を何度もまばたきさせる。



「え、どうしたの?」

「…これ」



そう問いかければ田代は鞄からゴソゴソと何かを取り出し、そのままボスッと俺の胸元に押し付けてきた。驚きつつもとりあえずお礼を言い、了承を得てから綺麗に包装されたそれを開けて行く。



「わー、可愛い」

「何を選べばいいか全くわからなかった」

「俺こういうの好きだよ。わざわざありがとう。正直田代から貰えると思ってなかった」

「どういう意味だ」

「ふふ、冗談。嬉しいよ」



気恥ずかしさからか、少しむくれた顔になった田代の頭をあやすように撫でれば、その表情は更に険しいものになった。素直に照れればいいのに。

プレゼントの中身は、個性的な柄の靴下が何足かと、濃茶色のイヤホンとかに使うコードリールだった。変に凝ってなくて実用的な所がこれまた田代らしくて、無駄に目の前にぶら下げてみたりしてみる。子供か、俺。



「でも、なんでこの組み合わせ?」

「前イヤホンのコードが長くて邪魔だって言ってたから」

「…靴下は?」

「いつも可愛いのを履いてるから」



ふと何気なしにこのプレゼントにした理由を聞いてみると、ちょっと俺にとっては嬉しすぎる、予想外の答えが返って来た。コードが長くて云々の話なんて本当に日常会話の一部で、今言われるまで覚えてなかったくらいなのに、そんな事まで覚えてくれてたなんて。服装にそこまで興味が無い田代が、注目して見ないと何の印象にも残らない足元までちゃんと見ていてくれてたなんて。

嬉しすぎて思わず手を伸ばしそうになったのをぐっと堪えて、俺もプレゼントを渡す為に一度それらを鞄にしまう。そして、入れ替わりに田代へのプレゼントを出す。



「俺からはこれ」

「ありがとう。開けてもいいか」

「うん」



雑に包装を解いていく田代にちょっと笑って、中身に目を通すなり目を子供のように輝かせた田代に更に笑う。
 3/4 

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