昨日は色んな意味で散々だったけど、いつまでもそれを引きずっている訳にはいかない。無駄に早起きしてしまったせいで若干眠気が来てるのは気力でどうにかするとして、午後2時半。待ち合わせ場所で田代の事を待っているこの時間は、多分俺が過ごすどの時間よりも長く感じる。

目の前を通り過ぎるカップルに目をやれば、女達は皆着飾った格好をしているし、男達も何処かの店で見た新作をちゃっかり着込んでいる。かくいう俺も服装を決めるのにはかなり時間がかかったから、人の事言えないけど。

田代と2人で出かけるのはなんだかんだ久しぶりだ。登下校は一緒にしてるしたまに寄り道もするけど、こんな風に予定を組んで出かける事は中々ない。だから、大学に行けば当たり前になる私服にも、今はこうやって意気込んでしまうのは仕方のない事だと見逃して欲しい。



「幸村君」

「あれ、早い…ね」



田代の私服姿はこれまで何度か見てきたけど、自分で決めた時はなんとなく適当さが滲み出てて、お母さんが決めたという時はカジュアルだけど女の子らしい感じが多い印象がある。そんな先入観があったから、…まさかこんな格好をしてくるなんて。お母さん、完全に俺の事からかってるでしょう。

首元にファーがついているベージュのPコートは、丈が長めだから中に何を着ているかは見えない。でも、そこから伸びている細長い足は黒タイツを履いているから、多分スカートかなんかだと思う。田代がこういう格好をしている事にもだけど、何より驚きなのは、ヒール嫌いの田代が低いながらも踵のある靴を履いているという事だ。それに、髪は毛先の方がゆるく巻かれていて、うっすらだけど化粧もしている。

何が言いたいかって、要は可愛すぎるんだよ。



「田代のそういう格好、初めて見た」

「お母さんが」

「だろうね、わかってるよ。でも凄い似合ってる」

「…早く行こう」



カツカツと聞き慣れない音を鳴らして前を行く田代を見て、早足で追いかけるようにして隣に並ぶ。



「歩きにくくないの?」

「歩きにくい」

「痛くないの?」

「痛くはない」

「痛くなったら」

「すぐに言う」

「うん、オッケー」



照れているのか恥ずかしいのか、やけに早足で歩く田代の手を若干強引に握ると、その歩調は一瞬にして遅くなった。だから思わず可愛いね、と口に出すと、田代は何か言いたげな顔で俺を見上げてから、手をぎゅっと握り返してきた。握力強いってば。



***



「大人2枚で」



幸村君に連れられて来た場所は、最近新しく改装されたと話題の、遊園地と動物園があるテーマパークだった。ちなみに今回のプランは全部幸村君任せだから、私はこれから何処に連れていかれるのか全く知らない。



「まさか田代がヒール履いてくるとは思わなかったから、ちょっと遊びにくいかな」

「乗り物に乗ってしまえば同じだろう」

「…そうだね」



私の返事に幸村君は嬉しそうに笑うと、そのまままた手を引いて歩き始めた。

このテーマパークには、改装する前のは何回か来た事があるが、してからは初めてだ。今日はクリスマスという事もあり、至る所に施されているイルミネーションがチカチカと眩しい。



「意外と好きかなぁって、こういうの」

「え?」

「田代って、体使う遊びになると子供みたいにはしゃぎだすだろ」

「…まだ子供だ」

「ふふ、そうだね」



からかうような口調に少し顔をそむければ、顎をガッと掴まれ幸村君の方に無理矢理向かされる。皆でいる時はともかく、普段2人でいる時はあまり強引な事をしないくせに、時々こうやって突拍子もなくやってくるから心臓に悪い。

そうして私達はようやくアトラクションに向かって歩き出し、手始めにジェットコースターに乗る事にした。色々言っといてなんだが、自分の好きな事を幸村君と共有するのは、中々良い事なのかもしれないと思った。
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