「ていう事はやっぱり、今週のクリスマスは2人で何処か行くの?」



へ?と気の抜けた声を出したのは私だけではなく切原君もだった。滝君の唐突な質問に私達はローストビーフを咥えながら唖然とし、思わずぱちぱちとまばたきする。ちなみに滝君の質問を聞いているのは私達だけで、他の人は各々楽しげに雑談を交わしているようだ。



「へ?って。晴れて付き合ったんだし、当然じゃない?」

「そ、そうッスよね。あれでもこないだ皆で遊ぶ約束しませんでしたっけ?しましたよね?嘘じゃないッスよね!?」

「嘘じゃない、嘘じゃないから離れろ」



勝手に思い込みをして涙目で訴えてきた切原君を、とりあえず顔面を手で押さえて遠ざけさせる。鬱陶しい。

今までのクリスマスやその他のイベントは、必ずと言って良い程この人達と過ごしてきた。だから今年も例外なくそうだと思っていたし、現にこの前既にその話は出た。12月24日、ご飯を食べた後にカラオケにでも行こう、とか丸井君が言っていた気がする。その場には8人全員居たし、誰もが賛成していたはずだ。そこまでの記憶を引っ張り出した所で、私は改めて滝君に向き直り口を開いた。



「毎年この人達全員と過ごしているし、別に2人では無いと思う」

「ふーん?」



滝君の意味ありげな、含んだ笑みが妙に突っかかる。



「でもね田代さん、クリスマスは世間的には2日間あるからね」

「は?」

「楽しんでね」



そうして滝君はその笑顔のまま違う人達の所へ行き、置き去りにされた私は絡み付いて来る切原君にも構う事無く、ただただその後姿をボーッと眺めていた。

世間的には2日ある。それはつまりクリスマスイブと当日の事を指しているのだろうが、今の所幸村君とそんな約束はしてないし、正直考えた事も無かった。…無かったけれど。



「…切原君、重い」

「絶対皆でも過ごすんすからねー!」

「わかったから」



2人で過ごしたいか過ごしたくないかで聞かれれば、それはやはり、前者なのかもしれない。



***



「跡部、世話になったな!」

「今度はこっちから誘う事にしよう。またな」



あっという間に時間は過ぎ、もうそろそろ19時になるという所で私達は帰る事にした。氷帝の皆はこの後も引き続き景吾君の家に泊まるらしく、景吾君は立海もどうだ、と誘ってくれたけど、流石に何の用意もしてないし急すぎるからという事で今日はもうお開きとなった。代表して、真田君と柳君が景吾君に挨拶をする。



「またいつでも来いよ。晴香!連絡怠るんじゃねーぞ!」

「あぁ、多分」

「是非また会いましょう!次は四天宝寺の皆さんも加えて!」



鳳君の純白な笑顔と共に放たれた言葉に、私達だけではなく氷帝の皆もうんうんと強く頷いた。そして最後に幸村君が前に出てきて、景吾君と向き合う。



「跡部、今日は色々ありがとう。帰りのバスまで悪いね」

「気にすんな。色々上手くやれよ」

「…はいはい」



景吾君は幸村君と私の頭を一緒に撫でながら、優しい表情でそう言った。それに幸村君はちょっとむくれた表情で返事をしていたけど、多分、照れ隠しだ。それがわかってしまったから、私も特に何も言い返せなかった。

玄関まで見送ってくれた氷帝の人達に手を振り、行きと同じバスに乗り込む。ジローが最後まで丸井君にくっついて大変だったけど、忍足君と宍戸君が2人がかりで引き剥がしてくれたおかげでそれもなんとか収まり、私達は跡部邸を後にした。

バス内は、子供組の丸井君と切原君が満腹感と疲労感で寝たおかげで非常に静かだった。2人のいびきはうるさかったが、それでも騒ぐ声よりはマシだ。そして、そんな2人を見て他の人達は呆れたように笑った。

しばらくして駅に着いて、各々の家に帰る為バラバラの帰路に着く。そんな中私は、幸村君と肩を並べて歩いていた。



「なんだか騒がしかったね」

「全くだ」

「楽しかったけどさ」

「…全くだ」



隣を歩く幸村君は心底楽しそうで、道端に転がっている小石を蹴りながら歩いている。ローファーに傷が付くのも気にせず話している幸村君はいつもより子供じみていて、また新しい一面を見つけたような気がした。



「ていうか、さ」



とその時、それまで笑顔だった幸村君は急に真剣な表情になり、転がり続ける石を見ながら小さめの声で呟きだした。それに対し私は首を傾げ、言葉の続きを待つ。



「25日って暇?」

「25?今月のか?」

「うん」

「あの人達と遊ぶのは24だよな」

「うん、だからその次の日」

「特に何もしてないが」



そこでパッと、先ほど滝君に問われた質問を思い出した。



「お前の事だから別にイルミネーションとかは興味無いだろ」

「あぁ、無い」

「高級料理よりも食べ放題だろ」

「そうだな」

「でもさ、たまには柄に合ってない事もしてみない?」



無意識のうちに遅くなっていた歩調はその言葉によって完全に止まり、幸村君はそんな私を不思議そうに覗き込んで来た。

確かに私は、綺麗なイルミネーションや大皿にこじんまりと盛られたような料理にもあまり興味が無い。でも、経験も無いのに興味が無いと最初から遮断してしまうのも変な話だ。…それに。



「幸村君、それは、2人でか」

「え?あ、うん。そのつもり、だけど。…嫌だった?」



隣に幸村君がいるなら、それも楽しくなりそうな気がした。



「嫌じゃ、ない」



何故かうるさくなってきた心臓を必死に止めようとしながら紡いだ言葉は、思ったよりも掠れた声で発されて、なんだかむず痒くなった私はそのままそっぽを向いて視線を逸らした。聞こえて来た笑い声が、また私をなんとも言えない気持ちにさせた。
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