「よく来たなお前ら、さぁ入れよ」

「まっるいくーん!」



そうして跡部邸に着いた立海陣は、まず玄関先にて跡部と芥川に出迎えられた。丸井は一目散に飛び付いてきた芥川を軽くいなし、早く食べ物に辿り着きたい一心で跡部に付き纏う。跡部はそんな彼に苦笑しつつも、既に他のメンバーが待っている食堂へと彼らを誘導した。



「忍足が謙也を通して四天宝寺にも連絡を入れたが、あいつらは今受験真っ最中だからな。さすがに今回は来ないみたいだぜ」

「そっか、四天はウチや氷帝と違ってエスカレーター式じゃないもんな。あの子達にも久しく会ってないから顔くらい見たかったよ、残念」

「また次の機会だな。それより幸村、顔が赤いが何かあったのか?」

「…別に」



なんともお約束な事を言い出した跡部にはそっぽを向き、幸村は茶化すように見つめてきた他の者達を軽く睨みつけた。そんな中晴香だけは大きく欠伸をしており、まるで彼らのやり取りに気付いていないようだ。

そんなこんなで食堂に着くと、そこには氷帝陣に加え豪華な料理がこれでもかというくらい並べられていた。その光景には丸井と切原だけではなく他の者も興奮し、一気に彼らの意識は料理に持って行かれた。



「食後にはデザートもあるぜ、せいぜいたっぷり食いやがれ」

「もー最高っす跡部さん!俺一生あんたに着いて行くっす!」

「なんや、立海のエースは簡単に寝返るなぁ。日吉の下剋上のチャンスやで」

「下剋上も何も、俺はハナからこいつには負けてませんよ」

「おい日吉、お前ちょっとツラ貸せー」



そこで始まった次期部長同士の言い争いは、同じく2年の鳳が抑制に入る事で一度幕を閉じた。それよりも早く食を楽しみたいという気持ちが勝ったのだろう。

各々が席に座り、立海と氷帝は向き合う形になる。当たり前のように誕生席にいる跡部が手元にあったジュースを手に持つと、他の者も同じようにグラスを手にし、彼の言葉を待った。



「久々のパーティーだ、今日は限界まで食って行くんだな!」



カキーン!。高そうなグラスがぶつかり合って良い音を鳴らし、各々選んだジュースを勢いよく喉に流し入れる。そうして全員がぷはぁっ、とグラスから口を離すと、いよいよ食事の時間がやって来た。

流石食べ盛りというべきか、やはり1番最初に誰もが群がるのは肉とご飯物コーナーだ。丸井、切原、芥川、向日の間に晴香も無理矢理入り、テキパキと自分の食べたいものを取って行く。



「相変わらずやなぁ。見てて気持ちえぇくらいにがっついとるわ」

「高校生になったら少しは落ち着くと思っていたが、見事にこの通りだ」



忍足と柳の会話を聞いて、他の者はやれやれといった感じで笑う。

それからはひたすら食を楽しむ者、あくまでも食はおまけで話をメインに楽しむ者といったような、2パターンに別れてパーティーは続けられた。お互い会わない期間にあった出来事を楽しげに話しており、その場は和気藹々としている。



「そういえば、あの2人はどうなった。いい加減少しは進展したか?」

「あ、付き合ったぜよ」

「は?」



とそこで跡部は、これまでもずっと気にかけてきた事をちょうど近くにいた仁王に、ごくごく軽いノリで問いかけてみた。概ねまだ幸村が奮闘しているであろう事を予想していたのだが、返って来た言葉はそんなもので、予想外の出来事に目が点になる。



「付き合った、だと?」

「一度自覚してからは早かったみたいじゃのー。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいラブラブじゃ」



ちゅるん、と仁王がパスタをすする音が、もはや何の音か分からないくらい跡部の思考は停止している。手に持っていた皿をテーブルに置き、再度前にいる幸村と晴香に目を向け。

次の瞬間、跡部は2人の元に向かって走り出した。



「幸村!晴香!」

「え、何、どうしたの跡部」

「?」



急に物凄い勢いで近付いてきた跡部を、幸村は精一杯引いた目で迎える。晴香は口に食べ物を含んでいる為首を傾げているだけだが、その表情はやはり不思議そうだ。そんな2人をしばらく見つめる事数秒後。跡部は白い歯を剥き出しにし、豪快な笑顔を浮かべた。



「めでてェじゃねーか!!よくやったな幸村!」

「ちょっ、え!?」



そうして跡部は2人の頭を抱えるようにして、ぎゅうぎゅうと力強く抱き締めた。突然の行動に幸村は驚いた声を上げ、晴香は手に持っている皿を即座に机に置く。跡部の行動に気付いた他の者達も、若干呆気にとられたようにその光景を見ていた。



「そういう事はさっさと言えよ!おい、ケーキを用意しろ!特大のだ!」

「はい、おぼっちゃま!」

「景吾君、くるし」

「じれったい思いさせやがって、馬鹿共が!」



幸村も決して身長は低く無いのだが、180cmを優に超えている跡部に抱き締められるとまるで兄弟のように見える。晴香なんて以ての外で、こちらは完全に親子状態だ。

しかし、跡部の表情は何処までも嬉しそうで、喜びに満ち溢れている。そんな彼の顔を見て気が抜けた晴香と幸村は、仕方なしに彼の背中に腕を回した。



「うわーなんか凄い光景ッスね!俺も俺もー!」

「ったく、激ダサだぜ跡部。どんだけ過保護なんだよ」



それを見守る彼らもまた、その光景を微笑ましい様子で見つめている。



「男に抱き締められる趣味は無いんだけどね」

「ンな事かまってられるかよ!」

「景吾君、ケーキを食べよう」

「あぁ、食え!」



ようやく離された体にはまだ抱きしめられた余韻が残っていて、なんとなく全身が窮屈だ。でも、2人はその窮屈さを存分に感じて、笑った。
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