「じゃあ、いつも言うけど事故に遭わないように安全に過ごせよー。良いお年を!」 「うおっしゃぁああ休みいぃいい!!」 担任が言葉を言い終えたと同時に大声を上げた丸井君に、クラスの人達は便乗して盛り上がり始めた。一気に騒がしくなった教室内にうるさいなと思いつつ、仁王君との絵しりとりを続ける。 「田代、何これ」 「カバ」 「どう見ても妖怪じゃろ…」 「仁王君の絵心だって相当なものだぞ」 「なーにやってんだよぃお前ら!早く帰んぞ!」 と、そこで騒ぎの当人である丸井君が近付いてきて、そのまま絵しりとりの紙を取り上げ教室から出て行ってしまった。ちなみに今日はこの後皆で食べ放題に行くことになっている。私と仁王君はその明らかに浮かれた後ろ姿を見てから目を合わせて苦笑し、ドア付近で待っている他の人達の元へ歩き始めた。 「さぁさぁ行くっすよー!」 ぞろぞろと玄関に行けばマフラーに顔をうずめた切原君が尻尾を振って待っており、そんな彼を先頭にして私達は再び歩き出した。通学路を歩く他の立海生達も私達と同じように浮かれており、どの人も考える事は同じなんだな、としみじみ思う。 とその時、ふいにポケットの中で携帯が振動した。誰だろうと思いつつ画面を見るとそこには少し久々に見る名前が表示されていて、ちょうど隣に立ってきた幸村君を視界に入れつつ通話ボタンを押す。 「よお、久しぶりだな」 「あぁ」 「立海も今日が終業式だろ?」 「何故知っている」 「俺様にわからねぇことなんざねーんだよ。じゃあ、駅に大型バスの迎えを送ってるから、それに乗ってさっさと来い」 「は?」 景吾君からの電話の内容はそんな素っ頓狂なもので、思わず大きめの声でそう返事をすると幸村君だけでなく全員が私の方を振り返ってきた。その表情は一様に不思議そうで、誰もが首を傾げている。いや、驚いてるのは私の方なんだが。 「今から食べ放題に行く事になってるんだが」 「アーン?そんなのウチで食えばいいだろうが」 「田代、相手誰だよ?」 どんな返事をしても全て景吾君のペースに持って行かれるので、私は丸井君にそう尋ねられたのを合図に携帯をスピーカーホンにした。すると、電話先からは景吾君に加え氷帝の人達の声がガンガンと響き渡って来た。うるさい。 「もしもし丸井くーーん!?早く遊びに来てよー!!」 「うお、ジロ君だ。え、なになに俺達そっち行く感じなの?」 「ウチの跡部がちゃっかり迎えのバス寄越しとるらしいから、暇なら来ぃやー」 「えーでも俺達これから食べ放題の予定あるんすよねぇー」 「そんなん跡部んちで食べまくった方が良いに決まってんだろっ!」 「じゃあ行く!!」 最後の岳人の声が決定打となったのか、そうして私達は食べ放題ではなく景吾君の家にお邪魔する事になった。駅に着くとATOBEと書かれたどでかいバスが悪目立ちしていて、私達はその様に噴き出した後、駆け込むようにバスに乗り込んだ。結局こうなるらしい。 「まさかこのタイミングで跡部から誘いが来るとはな。俺のデータにも無かった」 「流石にこれまで予想出来ていたら凄いを通り越して怖いぞ」 「赤也!丸井!これからご馳走になるというのにそんなものを食べるな!」 通路を挟んで隣に座っている柳君はそう言って楽しげに笑い、彼の隣の柳生君は行く予定だった店にキャンセルの電話を入れている。後ろではお菓子でも食べていたのであろう2人が真田君に怒られていて、仁王君はそんな光景を楽しそうにスマホで撮り、桑原君は不貞腐れた2人を慰めている。それから私の隣にいる幸村君に視線を移すと、彼は若干眉を下げた、困ったような表情で笑っていた。 「本当に凄いな、跡部の行動力というか強引さは。退屈はしないけどね」 「今に始まった事じゃないだろう」 「ブン太達、人様の家でも遠慮ないだろうからなぁ。食材全部食い尽くさなきゃいいけど、ってこれはお前にも言える事か」 「頂けるものは有難く頂戴しておく」 「はいはい、沢山食べろよ」 ポン、と頭の上に置かれた手はそのままワシャワシャと髪の毛を撫で回し、バス内の心地良い温度も相まってかなんだか眠くなってきた。だから軽く目を閉じ彼の肩に頭を預けると、その手は一瞬止まった後、また優しく動いた。 「精市、はいチーズ」 「うるさい蓮二茶化すな。写メ撮るな」 「幸村ブチョ顔真っ赤ー!」 「まだまだ慣れる事は無さそうじゃのう」 「今日も平和ですねぇ」 東京まで少しだけ、おやすみなさい。 |