―――そうして時は過ぎ、季節は冬に変わった。

俺達は、模試結果がギリギリだったブン太も含め、なんとか全員が立海大への推薦を貰う事が出来た。元々このクラスになった以上推薦は優先的に貰えると決まっていたから、これについてはようやく本当に安心できるようになったか、というレベルの問題だ。後は一応面接試験もあるみたいだけど、まぁ俺に限って落ちる事は無い。ていうか、よっぽどの事が無い限りブン太でも落ちないだろう。



「うおー、俺達来年から此処に通うのかぁ」

「でかいのう」



そんな俺達は今、揃いも揃って立海大学の前にいる。周りには俺達だけではなく他の立海生もいて、何故こんなにも大学に高校生が多いのかというと、今日此処では大学授業体験学習会というものが開催されるのだ。2週間実際に授業を受けられる事ができるこれには、毎年大勢の立海生が参加する。既に立海大への進学が決まっている者は、入学前のシュミレーションとして、まだ進学先が決まっていない者は、他大学との比較としてこの体験学習に参加している。俺達は勿論前者の類だ。私服の大学生達が今年も来たか、とどこか懐かしそうな視線を送ってくる中、堂々と校内に足を踏み入れる。



「ここからは学部ごとに別れての行動だな。また後で会おう」

「あ、教育学部は今日早く終わるみてーだから、俺終わったら先学校戻って部活見てくるぜぃ」

「俺は逆に遅くなりそうじゃ。まぁ兎も角、終わり次第高校集合っちゅー事で」



仁王の言葉を区切りに、俺達はそれぞれの学部へ行く為に一度別れた。ちなみに俺と同じ文学部なのは蓮二と田代で、その中でも蓮二は歴史学、田代は英文学、俺は芸術学を専攻としている。



「今は全員同じクラスなのに、一気にバラバラになるなんてなんだか変な感じだな」

「ようやく静かにはなるが」



文学部と途中まで棟の方面が同じの、経済学部のジャッカルは、歩きながらそんな事を呟いた。それに対しての田代の返事は相変わらずだけど、勿論それが本意じゃないのは知ってる。だから俺は隣にいる蓮二と目を合わせて、軽く笑った。



「田代、ちゃんと友達作れるの?」

「…さぁ」

「今まで俺達はずっと一緒にいたからな。まぁ、お前の場合は恐らく周りが寄ってくるだろうが」

「だろうなぁ、田代って何故だか人を寄せ付けるよな。あ、これ別に悪い意味じゃないからな」



きっと田代の場合、無理矢理作るくらいなら1人でいた方が楽だ、とか思ってそうけど。

そこで一足先にジャッカルが別れて、次に蓮二が別れて、俺と田代は2人になった。高校と違い、大学は時間割が個々で違うから、授業がもうすぐ始まるにも関わらず廊下には沢山の人がいる。他にも、カフェテリアで雑談をしていたり、校内で堂々と携帯を使っていたり、高校とはまるで違う景色が俺達の目に映った。



「っ、え?」



俺がその光景達に期待と不安、両方を抱いていると、ふいに田代が俺の指を1本だけ握って来た。驚いて思わず声を出しながら視線を下にするが、田代はしかめっ面を浮かべているだけだ。でも、人差し指にかかる力はどんどんと増していくばかりで、田代が何を考えているのかを汲み取る為に必死に頭を捻る。



「田代、どうしたの?」

「…違う」

「え?」

「全部、違う」



あぁ、そういう事か。

その言葉でようやく田代の考えがわかった俺は、一度噴き出した後にもう片方の手で田代の頭を勢いよく撫でた。



「大丈夫だって。友達も出来るし、俺達だってずっと一緒だろ」

「…うん」

「なんかあったら、飛んで行くから」



そうだった。田代は、強いようで弱い所もちゃんとあるんだ。周りに誰もいなくていい、1人でいい、なんて、とんだ俺の思い違いだ。何年も一緒にいたのに田代の何を見てたんだろう、と一瞬不甲斐なく思ったのは掻き消して、もう一度田代に視線を向ける。

服装も違う。授業の受け方も違う。生活スタイルも違う。人も違う。そんな中1人でいるなんて、最初は不安に決まってる。いずれ慣れるにしたって、そんな、女の子なら誰でも感じるような不安を、田代だって当たり前に持ってるんだ。だって、田代は女の子だ。



「絶対だぞ」

「うん」

「飛んでこなかったら、絶対嫌だ」

「…うん」



真剣な顔でそんな願い事をしてくる田代を、流石に直視は出来なかったけど、もう一度撫でてやるくらいの余裕はちゃんと見せた。…関係が変わったってだけでも、こんなに可愛く思えるものなのか。片想いの時でさえ色々と悩まされていたのに、変化とは全く持って留まることを知らない。俺はそんな新たな悩みを抱えながら、ほんの少しだけ嬉しそうに笑った田代の顔を盗み見て、また逸らした。
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