が、この時期になると、そうもずっとは浮かれていられないのも現実だ。



「明日から2日間、模試が始まるからな。推薦を取りたい奴はこの結果が大事になってくるから、各自勉強してくるように!」



そう、いくら進路が決まっているとはいえ、俺達は受験生なのだ。エスカレーター式というだけあって立海大への推薦枠はかなり多いし、ほぼ100%の確率で推薦も取れるけど、それでも無勉で挑むわけにはいかない。



「やっべー俺なんも勉強してねぇ。ちょ、ジャッカル、この後暇?勉強しねぇ?」

「お前どうせ集中しないだろ。勉強なら他の奴に教えてもらった方がいいんじゃないか?」

「えーでも皆スパルタだし…」

「おーい三強ー!ブン太が勉強教えて欲しいらしいぜよー!」

「仁王てめぇふざけんな!!」



あのブン太でさえ危機感を抱いているんだ、それほど今回の模試は俺達にとって重要なものとなる。じゃれ合っているブン太達からふと視線を移すと、田代は何やら気難しい顔で前回の模試結果と睨み合っていた。



「何難しい顔してんの?」

「どうも、国語の点数が振るわない」



ひょい、と田代の模試結果を覗けば、英語と数学はまぁまぁなのに国語の点数グラフだけ結構低い。それを見て俺は、国語なら蓮二が得意だよ、と助言してみた。確か国語だけならブン太も得意だったはずだけど、それ以外の教科が割と致命的なあいつに勉強の指導を頼む暇は無い。

でも、俺のその言葉に田代は不思議そうな顔で反応した。え、俺なんか変な事言った?…と、思ったのも束の間。



「幸村君は教えてくれないのか?」



さっきも思ったけど、俺、これから何度田代の天然を恨む事になるんだろう。思わず手を伸ばしそうになったのを必死に堪えて、じゃあ図書室でも行く?と誘えば、一度頷いてそこに向かう準備を始めた。



「お、2人はどっか行くのか?」

「図書室で勉強してくるよ。お前達は?」

「んー、まだちょっと収集ついてないからなんとも言えねぇな。今のうちに行けよ、気付いたらうるさくなるだろうし」

「ありがとう桑原君」



そうしてジャッカルにそう告げて、俺達は2人でそそくさと教室を後にした。

廊下に出れば、早速噂を聞きつけたのか、俺達が付き合った事を知ったのであろう生徒達がジロジロと興味津々な目で見てきた。ただ、俺から言わせれば田代と付き合えた事は奇跡に近いのだけれど、他の奴らからするとまぁじれったかったらしく、その視線に意外そうなものは含まれていない。



「流しそうめんの時、景吾君に言われたんだ」

「跡部に?」



この視線の数々には流石の田代も気付いたのか、不意にそんな事を呟いた。田代は跡部とは他校の中でもダントツに仲が良いみたいだし、そんな奴がこいつに何を言っていたのかはかなり気になる所だ。だから黙って返事を待つ。



「お前、好きな男がいるだろって」

「…そんな事言われたの?」

「それまでは全く気付いていなかったんだ、私も。実際に幸村君に言われるまで」

「だろうね」



つい昨日起こった出来事がなんだか懐かしく感じるのは、何故だろう。そう思っていると、田代は声を小さくして、また言葉を続けた。



「だから、幸村君は、いつから、その、…」



いつもは淡々と話す田代が、こんな風に戸惑っているのは中々珍しい。そして、可愛い。物凄く。という惚気は今は置いといて、俺も返事をする。



「実の所、俺も明確な時期はわからないんだ」

「そう、か」

「でも、多分、病気になって、お前に支えられてるって実感した辺りから、ずっとだよ」

「…そんなに前からなのか?」



心底驚いた表情で俺を見つめる田代に、清々しいくらいに気付かれてなかった事を今更実感して苦笑する。まぁ、過ぎた事はもういい。

中2の冬に罹った病気は、俺にとって色んな意味での転機だった。勿論、病気に罹って良かったとは一度も思った事無い。でも、病気のおかげで田代に対しての気持ちを自覚出来たのも事実だ。それだけでなく、他の奴らの想いもしっかりと受け止める事が出来た。あれを乗り越えられたから今があるというだけで、これは結果論でしかないが、物凄くポジティブに考えるなら、あれも必要な経験だったのかもしれない。良くはないが、必要だったんだ、きっと。



「だから思っても無かったんだよ、お前が俺の気持ちに応えてくれるなんて。長年暖めすぎて腐ったと思ったからね」

「そんな事は無い」

「…そう?」

「…そうだ。腐って無い」



冗談っぽく言ったつもりの言葉は、田代にとってはあまり冗談として受け取れなかったのか、そのまま不貞腐れたように視線を逸らされた。うわ、意外に拗ねやすいんだ。何このギャップ。口元が緩みそうになるのを堪えて、思わず変な形に歪んだのはこの際気にしない。とりあえず俺は、周囲に人がいないのを良い事にそのまま田代の手を掴んだ。握り返された手はやっぱり、恐ろしく暖かかった。
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