どうしよう隠し切れない



「…おはよう、お前ら。今日も絶好調に気持ち悪いね」

「あぁ、気持ち悪い」

「むふふふふ!」



目の前でそれはそれは楽しそうに笑うブン太と仁王を、田代と一緒に精一杯蔑んだ目で見つめる。そんな俺達気付いてか、他の奴らもわらわらと虫のように集まって来た。



「早速2人で登校とは焼けるのう」

「たまたま会ったんだ」

「これから毎朝一緒に来る約束をした確率、99%」

「蓮二、お前なんでも確率に表せば許されると思ってんなよ」



早速いらん事を言って来たこいつらには、鬱陶しいと思いつつもなんだかんだで全否定出来ない自分が悔しい。

昨日、田代にこの教室で告白した後にこいつらの元に戻ると、一瞬反応に困ってたけど俺が田代の手を繋いでみせれば、周りの住宅街に響き渡るんじゃないかってくらい大声を出して俺達を祝って来た。それまで状況を把握していなかった真田も、事が起こっている間に他の奴らから説明を受けていたのか、多分こいつが1番馬鹿でかい声を出してたんじゃないかと思う。柳生の取り乱しようにも引いたけど。

興奮が一通り収まった後には皆でファミレスに行って、いつもより更に倍近くの量を食べた。いくら儲かるとはいえ、あれは店側も迷惑だったに違いない。

帰りは田代と一緒に帰って、関係が変わったからと言って特に特別な事は無く、そのまま普通に家まで送り届けて、普通に別れた。ただ、家に入る間際にこれからよろしくね、と俺が言った瞬間のあいつの顔は、一生忘れないだろう。



「からかうのも対外にしたまえ、むふふっ。ほら、予鈴が鳴りますよ」

「え、何、今仁王と柳生入れ替わってんの?」

「正真正銘の柳生なり。嬉しさが隠し切れんくてキモイ事になってるぜよ」

「柳生、キャラ忘れるなよ…」



若干引き気味のジャッカルに続き、今の柳生には田代もドン引きしたみたいで、即座に自分の席に座って行った。その後姿を見て思わず噴き出したけど、すぐに平然を装って表情を固める。



「隠しても無駄だぞ、精市」

「幸村!楽しい時は笑うのだ!」

「…わかったってば」



過保護な二強はこの際スルーして、さて、HRが始まる。どいつもこいつも浮かれてんなよ、俺も人の事言えないけど!



***



「せっんぱっい達ー!ご飯ですよー!」

「おーおー、俺達より更に浮かれてる奴が来たぜぃ!」



昼休み開始の予鈴とほぼ同時に教室に駆け込んできた赤也は、弁当箱に加え沢山のお菓子を手に持ちながら、俺達の元に近付いて来た。もはや先輩の教室とかそんなのはこの子に関係無く、その表情はただただ嬉しそうだ。



「今日はちょっと寒いんで屋上はやめて、部室行きましょ!」

「つーか赤也、その大量の菓子はどうしたんじゃ」

「勿論、昨日に引き続きお祝いっすよー!」

「そんな何度もしてどうするんだ」



あまりにも子供のようにはしゃぐ赤也を見て、田代は若干困ったようにそう言ったけど、それも全部笑顔で封じ込められた。ここまで来れば気の済むまでやらせる他無いだろう。だから俺も弁当を持って田代の隣に立ち、ほら行くよ、と背中を押す。



「しばらくうるさそうだな」

「しばらくも何も、こいつらはいつもうるさいだろ?」

「いつもに増して、だ」

「何、お前は嬉しくないの?」



先に前を歩く奴らの後を、少し距離を開けて田代と歩く。すると田代は俺のこの質問に一瞬動きを止め、軽く俺を見上げ、また逸らして、俯いて、ようやく言葉を発した。



「別に、そんな事は一言も言ってないだろう」



…どうしてくれよう、この破壊力。一瞬にして胸がぎゅーっと締め付けられるような、まさに少女漫画とかに出てきそうな状態になった俺は、そのままその感情をぶつけるように田代の肩を小突いてやった。これから先が、別の意味で思いやられる。
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