「おーっと、白組独走!白組テニス部独走です!生徒からの声援が凄まじいです!!」



昼休憩後、一発目の競技は二人三脚だ。白組からは丸井君・桑原君ペア、仁王君・柳生君ペアが出場する事になっており、今の所2組のレーンだけぶっちぎりという状況である。紅組からは真田君・切原君ペア(学年は関係無いらしい)が出場するが、順番が異なっている為直接は当たっていない。当たっていたら多分、もっと酷い事になっていただろう。

白組の1位は決まったも同然だが、そうなれば次はその2組同士での争いが始まる。両者お互い一歩も譲らずといった感じで、柳生君に至っては眼鏡が取れそうだ。紳士の名が廃れる。向かいの紅組応援席では幸村君が口を大きく開けて心底楽しそうに笑ってるし、本当にこの人達は勝負事となると我を忘れるな、とつくづく思う。



「テニス部接戦です、果たして勝利はどっちか…あぁーー!!丸井・桑原ペアゴーール!!」

「うおっしゃああぁああぁ!!!」



とか思っている間に競技は終わり、目の前を見れば丸井君が満面の笑みで桑原君に抱き着いていた。大層重いだろうに、ドンマイ桑原君。僅差で負けたのであろう仁王君・柳生君ペアに視線を移せば、負けたのがそれなり悔しかったのか2人共些か不満そうな表情を浮かべている。なんだかんだで張り切っているらしい。

2組のレースが終わった所で、次は真田君・切原君ペアの出番だ。ヨーイ、バンッ!と銃声の音が鳴り響いたと同時に2人は驚異的な速さで他との差を開き、あっという間に1位でゴールした。むしろ圧倒的すぎてつまらない。だから私はゴール先でじゃれ合っている6人から視線を逸らし、そのまま次の競技の準備に向かった。次は障害物競走だ。面倒な事にこれには私も出場する事になっている。



「田代も出るんだったな」

「柳君」



そうして待機場所に向かって歩いていると、柳君がハチマキを結び直しながら近付いてきた。彼がこの競技に出るのは中々意外だ。その意を込めて若干ジロジロと凝視してみれば、彼はお前も人の事言えないぞ、と苦笑しながら言ってきた。



「バレたか」

「顔に書いてある。似合わなくて悪かったな」

「あまりこういうのに出そうな印象が無かっただけだ」

「そうか」



後ろの方からは、待てよ柳田代ー!と叫んでいる丸井君の声が聞こえる。私達はそれを聞いて目を合わせ一瞬足を止めたけど、どうせすぐに追い着いてくるだろうと思い結局そのまま歩いた。すると数秒後、案の定背中に衝撃が走る。重い。



「待てっつってんじゃんこの薄情者達!」

「どうせすぐ追い着くだろうと思ったんだ」

「柳君の言う通りだ。丸井君重い、太った」

「てめぇえぇ言ってはならない事を!」

「落ち着けってブン太、お前全競技出ずっぱりなんだから無駄な所で体力消耗すんなよ」



私の背中に乗って頭をガシガシしてきた丸井君を、桑原君が無理矢理引っ剥がしてくれた。手櫛で髪を整えようとすればその前に柳君が直してくれたので、またそのまま歩き出す。



「幸村君は何に出るんだ」

「あいつは後借り物競争、騎馬戦、リレーだな。この後の競技には全部出る」

「そうか」



そこまで会話した所で柳君は紅組列に行き、丸井君と桑原君は男子列に行き、私も女子列に並ぶ。チラ、と応援席を見ればそこには違う組にも関わらず固まっている切原君、真田君、幸村君、仁王君、柳生君がいて、思わず頬が緩みそうになったのを見られない為にそっぽを向いた。



***



「田代が!田代がほふく前進で縄くぐり抜けとる!」

「晴香先輩がジャンプしてパン食べたぁああぁ!!」

「お、落ち着きたまえ、2人共」



各組の応援席のちょうど中間辺りにいる5人は、晴香が全力で競技を行っているのを見て大いに興奮していた。正確に言えば、叫んでいるのは仁王と切原のみだが、その珍しい姿に圧倒されているのは他の3人も例外では無い。



「怠惰で物臭な奴だが、勝負事は流石にしっかりしているな。それでこそ我々の仲間だ!」

「はいはい、わかったから。お前の田代と赤也に対するウチの子自慢は聞き飽きたよ」

「ゲッ、なんで俺が副ブチョの子供なんすか!?嫌だー!」

「嫌だとはなんだ赤也、そこになおれ!!」

「真田君お気を確かに!」



またもや始まった喧嘩に幸村と仁王は目を合わせて息を吐き、うるさく騒ぐ3人から若干距離を開け、再び競技に見入った。晴香はもうゴール寸前で、このままいけば1位なのは間違いない。



「あぁ見えて運動神経えぇからびっくりじゃ」

「ほんとね。あんなに細いのに馬鹿力だし」

「田代には驚かされる事ばっかじゃのう」



そこで仁王の何かを含んだ言い方に感付いた幸村は、目を細めながら隣にいる彼に視線を移した。お前も蓮二みたいに人をおちょくるつもりか、とでも言いたそうな顔である。それを見た仁王は、一度クシャリと笑った後、幸村の肩に手を置き耳元で囁いた。



「お前さんは、もっと自信を持ってよか。絶対に、マイナスになんかならん」



それが何の事を指しているのかは、勿論幸村も理解している。だからこそ何も言い返せないのだ。



「…見てよ。やっぱりぶっちぎり1位だ、あいつ」

「勇ましいのう」

「しかもパン頬張ってるし。ハムスターみたいだ」

「幸村、緊張しとるじゃろ」

「うるさい」



そこで幸村は仁王の手を払いのけ、トイレ行ってくる、とだけ言い残しその場から一度離れた。隠そうとしている割にはあまりにも分かりやすい態度に仁王は噴き出し、晴香と彼の姿を見比べた。2人共、お互いを見ていた。
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