こんなに綺麗に咲くから



「障害物競走に玉入れ、綱引きに二人三脚に…ほんと体育祭っつーよりもろ運動会だよな、これ」

「あぁ。怠くて堪らない」



白色のハチマキを巻いた私と桑原君は、目の前の光景を見ながらそんな会話を交わした。

立海大高等部名物の1つに入るこの体育祭、別名運動会は、その懐かしい競技の数々に誰もが精を出し、毎年異様なまでの盛り上がりを見せる。そしてそれは今年も例外なく、特に今日の運動会日和とも言える晴天の空を見て皆は大いに喜んでいた。私にとっては苦痛でしかないが。



「田代は後何出るんだったっけか?」

「障害物競走と騎馬戦とリレー。桑原君は?」

「次の綱引き以外全部出るぜ。ブン太がうるせえからな、道連れだ」

「災難だな」

「まぁ、もうこれが最後だし俺も楽しみにしてなかった訳じゃねえから。どうせならやりきるつもりだぜ」



ちなみに私達は今、水飲み場から白組の応援席に戻る為歩いている真っ最中だ。チラリ、と横目で紅組の応援席に目をやれば、そこには必死に自分達の組の応援をしている切原君と真田君、更にはそれを鬱陶しそうに見ている柳君と幸村君がいた。正直、この4人が同じ組に固まった時点で勝敗は決まったようなものであると思ったのは秘密だ。

私達の視線に気付いた柳君と幸村君は、他2人の目を盗んでこちらに駆け寄って来た。その目は明らかに挑戦的で、柄にもなくムッとなる。



「40対26、今の所紅組が断然優勢だな」

「かつての三強とエースの威力は流石だな」

「田代、競技中こけないように気を付けてね」

「うるさい」



いつもはまとめる立場に回る2人も、やはりこの雰囲気を楽しんでいるのかその笑顔は若干幼い。その事を面倒に思った私は、苦笑する桑原君の腕を取ってさっさとその場から離れる事にした。



「ふられたな、精市」

「いやこれからだし。縁起でもない事言うなよ」



戻っている最中、桑原君があの2人楽しそうだな、と言って来たから、つられるようにもう一度後ろを振り返れば、案の定2人はまだこっちを見て微笑んでいた。幸村君に至っては手まで振ってくる始末だ。そういえば、少し前までの幸村君はなんかよそよそしくて変だったが、最近はまた本来の彼に戻りつつあるような気がする。それを自分が嬉しく思っているのかどうかはよくわからないが、まぁ、悪くはない。



***



「31、32…おーっと白組ここで玉が切れました!またもや紅組の勝利です!紅組強い、紅組強い!」

「だあぁああぁくっそぉー!!」



頭を抱えながら絶望的な悲鳴を上げた丸井は、周りのチームメイトに笑われながらも励まされ、子供のように地団駄を踏みながら立ち上がった。それを傍らで見ている仁王、柳生、ジャッカルは苦笑しながら彼の背中を叩き、晴香はさっさと応援席に戻る。よほど日射しが苦手なのだろう。

そうして玉入れが終わった所で、次は恐らく晴香が1番楽しみにしていたであろう昼休憩のアナウンスがかかった。それを合図に、彼らは元から決めていた集合場所に歩き出す。



「マジで紅組強すぎ、つーか三強が化けモン!!」

「化け物扱いとは心外だな」

「ねー、酷いよねー」

「ゲッ!噂をすれば!」



負け続きな事が相当悔しいのか、歩きながら丸井がそう愚痴を吐いていると、後ろから噂の張本人達が気配も無く現れた。その更に後ろでは真田と切原が何やら揉めており、仲裁に入る為にジャッカルと柳生が一度輪から抜ける。とはいえ、向かう場所は皆一緒なのだが。

柳と幸村は、猫のように威嚇する丸井の頭を揶揄するように撫でた。勿論その行動は彼の神経を逆撫でするものでしかなく、よけいにその場は騒がしくなる。



「ブン、うるさいぜよ」

「だって幸村君と柳がー!!」

「丸井君、ポッキー」

「やりー、いただきっ」



そんなうるさい丸井を止めたのは、滅多に自分の食べ物を人に渡さない事で有名な晴香だった。だから、普段の彼女からするとこの行動はありえないが、今は丸井を黙らせる事を優先したのだろう。案の定、彼はもぐもぐと美味しそうにポッキーを咀嚼している。



「ねえ田代、昼飯何持って来たの?」

「重箱」

「弁当箱の種類を聞いたんじゃないんだけど」



そこで幸村は積極的に晴香の隣に行き、なんてことない、他愛もない会話を彼女と交わし始めた。以前までの彼と比べたら結構な成長である。最近になってようやくいつもの彼らしくなって来た事は勿論他のメンバーも気付いており、彼らはその2つの背中を優しい目で見守った。



「やっぱりこうこなくっちゃなー!」

「やーっと幸村らしくなってきたのう。やっぱり、あの時の話し合いが効いたんじゃろ」

「そうらしいな」

「ねーねー先輩達ー!早めに飯食ってリレーの練習しましょー!」



体育祭が終わるまで、あと数時間。その時に目の前の2人がどうなってるか、誰もが予想して、微笑んだ。
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