「という話を精市として来た」 「参謀も意地悪じゃのう。今言っても驚くだけ、なんて」 「今の田代からいくとそれだけなはずねえのに、なんであえてそう言ったんだよぃ?」 所変わって、某ファーストフード店。あの後柳は幸村と別れ、仁王と丸井と桑原がいる此処に合流した。話題は勿論先程の幸村との会話で、3人は彼の話を前のめりになって聞いている。 「俺、あんまり田代と幸村が2人で話してるとこ見たことねえからなんとも言えねえんだけどよ。2人って上手くいってんのか?」 「上手くいってるも何も、後は田代が気付けば一件落着だろぃ」 「確かに俺から見ても、田代が精市に特別な感情を抱いている確率は極めて高い。だが、俺が精市に言った言葉もただの意地悪という訳じゃないぞ」 「じゃあ、どういう意味なんじゃ?」 新発売のシェイクをストローで飲みながら問いかけた仁王は、繊細な手つきでポテトをつまんだ柳を見て、首を傾げる。頭の上に疑問符が乗っているのは丸井も桑原も一緒で、3人はひたすら柳の返事を待った。 「何事も、苦労して手に入れた方が有り難みが分かるだろう」 「…それ、お前が楽しんでるだけじゃんよ」 「流石柳だぜ…」 「参謀こわーい」 しかしその返事は3人が予想していたものよりもずっと呆気なく、無意識のうちに強張らせていた肩をガクッと落とす。柳はそんな3人を見て1人笑い、今度は季節限定のデザートに手を付け始めた。 「そういえば、田代は一緒ではないのか」 「今日は眠いから帰ってさっさと寝るんだとよ。ほんとあいつそういうとこ変わんねえよなぁー」 「まぁ、それが田代らしいだろ」 「気を遣って着いて来る田代なんて気持ち悪いぜよ」 そうして4人の間には和やかな雰囲気が流れたが、まだ解決していない事柄が1つあるのを忘れてはいけない。柳はそれを思い出させるように楽しい話を遮り、軽く溜息を吐いた。 「お前達、赤也の事を忘れてはいないだろうな」 「…あ、そうだった。あいつ1回不貞腐れると面倒くせえんだよなぁ」 「それはブン太にも言えるんじゃなか?」 「ははっ、確かにな!…って、笑ってる場合じゃないな。なんせ今回は相手が幸村だし」 ズズー、と、丸井が仁王とは違う味のシェイクを飲む音がその場に響き渡る。柳はその沈黙を遮り「一応精市にも言ってはおいたのだが」と呟いたが、3人の反応は相変わらず芳しくない。 幸村の中では晴香への気持ちが整理出来た事により、若干の心の余裕というものが生まれただろうが、切原はそうではない。切原の中で幸村と喧嘩をしたという事柄はかなりの一大事で、幸村が素直に折れない限り彼の不満が収まる事はないだろう。しかし、知っての通り幸村の捻くれ度はテニス部全員の折り紙付きだ。果たしてそんな彼が上手く切原をなだめられるのだろうか。 と、4人が心配したのも束の間。 「…いや、どうやら心配損だったようだ」 「何か来たのか?」 「ほら」 柳は、たった今届いた1通のメール画面を3人に見せるために机に携帯を置き、そのまま食べ終えたゴミを捨てるため席を立った。即座に画面を覗き込んだ3人は映し出されている文章を読むなり、また同じように口角を上げた。 「ブチョと仲直りしたっす!!!って、部活中に送って来るとはいただけんのう」 「つーか幸村君、部活に乗り込んだのかよぃ。柳、帰り道の途中で別れたって言ってなかったっけ?」 「幸村は思い立ったら即行動派だしな。引き返してても不思議じゃねえぜ」 「その行動力が田代に対してもあればいいのになー」 「ま、もうその日も近いって分かったしええじゃろ」 文章からも伝わってくるその喜びようは、実際に目の当たりにするとどれだけ強烈なのか。最早考えずとも予想がつく後輩の満面の笑みに、3人は噴き出すように笑った。 「なぁなぁ、この後ボーリング行こうぜ!」 「えー、ダーツが良いなりー」 「どっちもある場所無かったか?」 「その前にお前達、ゴミを片付けなさい」 実際の当事者は2人しかいないのに、それ以外の者もあらゆる形で関与している事がおかしくて、楽しくて、少し鬱陶しくて。今まで2人の事を1番近くで観察し続けて来たデータマンは、これから先も到底目が離せそうにないと確信し、新しいデータノートに手を付けた。 |