高ぶる気持ちに限界が来た



「好きです!付き合ってください!」

「(…マジかよ)」



昼休み。朝練の時に置いて来ちまった忘れ物を部室まで取りに来た帰り、裏庭の茂みからそんな台詞が聞こえてきた。まぁ、いわゆる告白っつーやつだ。別に、先輩達には敵わないけど俺だってそれなりに告られた事はあるし、今更それを聞いた所で焦る事はねぇ。でも問題は、



「ありがとう。でもごめん、その気持ちは受け取れない」



相手が幸村部長っつー事だ。

ちょうど部長の姿が見えたから走り寄って来たけど、まさか他にも人がいたなんて死角になってて全然わからなかった。よくよく考えれば、1人で裏庭に突っ立ってるなんて状況ありえねーんだけどよ。そうして完全に行き場を失った俺は、とりあえず2人のやり取りが終わるまで大木に腰掛けて待つ事にした。チラ、と横目で部長を盗み見るけど、相変わらず目が笑ってなくてこえぇ。相手の女は最終的に俯きながら走り去って行ったけど、それでも部長はなんの感情も無いような表情だった。当たり前かぁ、部長レベルになるともうこんなんウンザリだよなぁ、引退してから余計告られるようになったみてーだし。

ていうかそもそも、部長には晴香先輩がいるし。



「そこで覗き見してるのは赤也かな?」

「うおっ!?」



その時突如投げかけられた言葉に、俺の肩は情けないくらい跳ね上がった。ギギギ、という効果音がつく勢いで顔を上げれば、そこには案の定ニッコニコときれーいな笑顔を浮かべている幸村部長がいる。こええええぇええぇ!!一瞬にして恐怖心を煽られた俺は、取れるだけの距離感を部長との間に置き、シャキッと大袈裟なくらい背筋を伸ばして立ち上がった。



「ぐ、偶然っすよ偶然!別につけてきたわけじゃないですからね!?」

「当たり前だろ、赤也にそっちの気があっても困るの俺だし」

「デスヨネー…」



まぁこのまま話を引きずるのもなんだし、1回深呼吸して無駄に上がってしまった心拍数を落ち着かせる。そんな俺の様子を幸村部長は呆れながら笑ってて、俺もアホ臭くなって笑った。で、まだ昼休みが終わるまで時間があるから、俺と部長はそのままベンチに座って話し込むことに。



「ていうか赤也、部室に忘れ物でも取りに行ってたの?」

「ゲ!なんでバレたんすか!」

「お前の行動はワンパターンだからね」

「とか言っちゃって、部長もワンパターンじゃないっすか〜」



いつものように腕を組みながら俺の事を茶化してきた部長に、俺もちょっと仕返ししてやろうと思って、肘で軽く小突きながらそう言い返してみる。すると部長はなんのこと?という風に首を傾げてきたから、俺はニヤリ顔で再び口を開いた。



「晴香先輩の事ですってば!いい加減もどかしいっすよー!」

「…まぁね」

「そろそろ言わないんすか?」

「そんな簡単に決められる事じゃないだろ」

「そうですけどー。脈アリだと思うんだけどなー」

「適当な事言うなよ」



だけど、俺の言葉の何処に腹を立てたのか、部長は急に一段と低い声になって口調を厳しくした。

いつも怒られる時は大抵俺に欠点があるし、それをちゃんと自覚してるから素直に言う事も聞ける。でも、このタイミングでこんな怒られ方をされなくちゃならないのはちょっと不満だ。



「適当じゃないっす。2人を見てて本当に思ってるんす」

「田代の気持ちなんて田代にしかわからないだろ」

「そんな事言ってたらキリないじゃないすか!ここはガツンと!」

「ガツンといけるものならとっくのとうにいってるよ」

「もーー!部長の分からず屋!!」

「人の気持ちを簡単に測るような奴に言われたくないね」



口下手な俺がこの人に口喧嘩で勝てるはずなんか無いのに、一度言い出したらもうキリが無い。晴香先輩の事となると部長の人が変わるのにはもう慣れっこだけど、こんな変わり方ってアリかよ!

結局、部長の冷ややかな視線によってどうしても居た堪れなくなった俺は、逃げるようにしてその場を後にした。部長が本当に晴香先輩の事を好きなのも分かる。でも、それに捕われてちゃなんも始まんねーよ。

冷静になれば部長に言いたい事はちゃんと整理されて出てくるのに、なんで上手くいかないかなぁ。勢いで裏庭から出てきちまった事に後悔しつつ、俺は肩をがっつりと下げて教室に戻った。幸村ブチョー、なんであんたそんな格好良いのに晴香先輩の事となると自信無くすんすかー…。
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