「今年もやって来たでー第2回3校合同流しそうめん大会いぃいー!」

「もう秋やけどな」



謙也の掛け声に忍足君が釘を刺したせいで、いつも通り2人はギャーギャーと喧嘩をし始めた。その光景に慣れている皆は最早止める気も無いのか完全にスルーしていて、唯一桑原君が間に入って「まぁまぁ」と宥めている。流石桑原君、と言いたい所だが、あの喧嘩に入るのは私も面倒なので特に近付きはしない。

そんなこんなで、去年より時期は遅くなってしまったが、今年も流しそうめん大会と称した打ち上げが始まった。場所はお馴染みの跡部邸で、時期が時期なだけにか、今回はそうめんだけではなくハロウィンに向けたかぼちゃを使った料理も多数用意されている。色とりどりの美味しそうな料理達に、私の目は先程から輝きっぱなしだ。



「田代、目輝いてるよ」

「どれも美味しそうだ」

「もうすぐハロウィンだからね。跡部のサービス精神も相変わらずだなぁ」



私の表情を見てか、幸村君はクスクスと笑いながら隣に立って来た。ちなみに、去年流しそうめんセットを購入した景吾君は、あれからも氷帝メンバーで何度かセットを使ったらしく、手慣れた手つきでそれを用意していた。それに対しても幸村君は楽しそうに笑ったので、私もつられて笑う。



「あんな準備に積極的な王様、中々いないよね」

「景吾君だからな」

「その一言で納得出来ちゃうところもアイツの凄い所だ」



相変わらずワイワイと賑わっている皆は、久しぶりの再会を喜んでかかなり浮かれている事が窺える。確かに、3年生に上がってから大会が終わるまでは、各校練習に忙しかったから会って遊ぶ暇など無かった。それに、いくら仲が良くても皆はライバルでもある。大事な大会前にライバルと悠々と遊ぶだなんて事、この人達がするはずが無いのだ。

かぼちゃのケーキにはしゃいでいる丸井君とジローも、未だに喧嘩しているW忍足も、宍戸君をからかって遊んでいる仁王君も、千里の肩に乗って遊んでる岳人も、輪になって話し込んでいる2年生達も。この光景が見れるのは、大会を終えて一息吐いた今だからこそなのだ。



「長いようで短かったのか、短いようで長かったのか」

「田代?」

「よくわからないな」



テニスはおろか、スポーツ観戦など別に好きじゃない人間が運動部のマネージャーをやるなんて、端から見ると違和感しかなかっただろう。ていうか、私自身違和感だらけだった。そもそもの動機はテニス自体には無いし、マネージャー試験の時にも言った通り、この人達だからサポートしようと思った、それだけの事だった。

別に今も、テニスが大好きだとかそういう訳では無い。でも、このスポーツを通じてこの人達を筆頭に色んな人と関わりを持てたというのは、私にとって大きな転機になったと思う。



「…ま、とりあえず目一杯食べとけば?早く行かなきゃそうめん無くなるよ」

「それは駄目だ。行こう幸村君」

「はいはい」



立海に勝ってほしいとずっと思っていたのは当たり前だ。でも、正直な所、氷帝と四天の皆にも勝ってほしいという矛盾した気持ちもあった。

とはいえ、そんな矛盾にいちいち思い悩むほど私は難しい人間ではないのだが。



「せや幸村、全国大会の最後の自分の試合、ほんっまにあっぱれやったわー。俺達全員スタンディングオベーションしてしもたんやで」

「清々しいほどに容赦無かったな。嫌いじゃないぜ、あぁいうの」

「当たり前だろ」



蔵ノ介と景吾君に賞賛された幸村君は、いつもの笑い方では無く少し幼い、まるで子供が胸を張って自慢する時のような笑顔を浮かべている。

もう一度言うが、テニスは別に大好きじゃない。ただ、この人達をこういう表情にしてくれるテニスは、私にとって大切で堪らないものなんだと思う。



「晴香ー、何ぼけっとしてるのー?いらないんなら俺がお菓子全部貰っちゃうC!」

「絶対駄目だ。ふざけるな」

「お、落ち着きたまえ田代さん」



こんな事は口には出して言わないが、とりあえずいい加減そうめんに食らいつこう。お菓子も勿論食べてお腹一杯なってうるさいこの人達と過ごせていれば、私は満足出来るみたいだ。
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