暑い熱い夏の再来



けたたましいくらいの歓声が響く中、私は容赦なく照りつけてくる太陽を一度睨んだ後に、目の前のコートに視線を移した。



「これより、全国大会決勝戦を始めます。礼!」



アナウンスの声が響いたと同時に整列している皆は深々と礼をして、D2の桑原君と丸井君だけがコートに残り、他の人達は私が居るベンチに向かって歩いてくる。

今日は、全国大会決勝日だ。

これが私達にとって本当に最後の夏となる。残念ながら対戦校は因縁がある青学では無いが、それでも強豪校な事には変わりない。青学は高校に上がってから別の進路に進む人が多く、中学ほどの活躍を見せていないのは高1の頃からそうだった。でも、あの人達はそれを別に悔やんではいないのだろう。あの時あのメンバーで優勝出来た彼らに、きっと悔いは無い。ただの憶測にすぎないが。

でも、私達は違う。



「いよいよ始まりましたね」

「…あぁ」



あの時は私と一緒にずっと観客席にいた柳生君も、今日はこの後仁王君とダブルスとして出場する。補欠の切原君は、最初は一緒に出られない事を不満に思っていたようだが、この人達の最後の試合を間近で見送れる事を自覚するなり、水を打ったように静まった。今も、いつもはうるさいその口を閉じて、真剣な表情でコートに見入っている。

楽しむ事も勿論大事だ。だけど、やっぱり私達は、勝ちたい。



「ねえ、田代」

「うん」

「…今日こそは、俺もお前もガッツポーズするって約束だ」

「わかってる」



隣に立って来た幸村君は、相変わらず肩にジャージを羽織り腕を組みながら、私の方は見ずにそう言って来た。だから私も端的な返事だけをし、そのままベンチに行った彼の後姿を見送る。

あの日青学に負けた事によって私達が成長出来たというのなら、今日はそれの集大成だ。あの日のおかげで今がある、と胸を張って言えるような試合にしてほしいし、したい。そんな珍しく熱い想いを抱きながら、私は目の前にいるこの人達の事を見つめた。



***



「お前が決めてこい、幸村」



真田君から幸村君にラケットが手渡され、それに対して幸村君は一度深く頷き、ゆっくりと立ち上がる。



「ブチョ、」

「今度こそお前には、部長としての勇姿を見せてやらないとね」



試合が始まる前から既に泣きそうになっている切原君は、コートに入ろうとする幸村君の事を一度呼び止め、そしてその表情を見た幸村君は苦笑しながら彼の頭を軽く撫でた。一瞬にして切原君の顔は俯き、それを見兼ねた丸井君と桑原君が彼の両隣に立って肩を組む。

ここまで2勝2敗、これで勝負が決まる。これまでの試合ではS1の幸村君まで回って来た事が無かったので、正直決勝もそうなるんじゃないかと少しは思っていたのだが、やはり違う。でも、立海黄金世代の再来、とかなんとかテニス雑誌で取り上げられているのを見た時は流石に苦笑したが、それも満更でもなかった。勝ち負け関係無く、どの試合も切原君と一緒に前のめりになって見てしまった。



「しっかり見とけ」



私の頭に、柳君の手がポンと乗る。いつもよりさっぱりした口調の彼の横顔を盗み見ると、その切れ長な目は開かれ、しっかりと幸村君に向けられていた。他の皆もそうだ。

幸村君は、あの中学の全国大会以降、どんな気持ちで試合に臨んでいたんだろう。ちゃんとテニスを楽しめていたのだろうか。私がそうなように、このメンバーで勝ちたいと思っていてくれてるのだろうか。…そうだったら、嬉しい。凛とした表情でコートに立つ彼を見ながら、1人でそんな事を考えた。
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