「ノッてくんなきゃ潰すッスよー!!」 ステージ上に出て楽しそうに歌っているあの人達を、舞台袖の陰から見守るように見つめる。 部活展示でバンドをやる事になり、更にあの人達がボーカルを務める事が決定した時、(主に切原君から)しつこいくらいの「田代も歌おう」という誘いを受けた。それを聞いて、人前に出る事すら出来れば避けたいのに歌なんてとんでもない、と思った私は、瞬殺の勢いでその誘いを却下した。勿論、一度断ったくらいでは引き下がってくれなかったのだが、こればかりは私だって流石に折れる訳にはいかない。だから何を言われても「やだ」の一点張りで粘った。 その甲斐あって今私はこの舞台袖にひっそりと隠れられている訳だが、いやはやあの人達の人気は相変わらず凄い。普段一緒にいるとどうにも忘れがちだが、あの人達は揃いも揃って学校のアイドルと称してもおかしくないほどなのだ。私は桑原君しか認めてないが。 「お、このガリ子ちゃんは田代ちゃんか?」 「…あ」 そうして桑原君の事を目で追っていると、ふいに私の隣に誰かが立った。パッと見るとその人は完全に私服で、何故私服の人が舞台袖に、と疑問を抱いたのも束の間、その屈託のない笑顔には見覚えがあった。前部長だ。 「お久しぶりです」 「うん、久しぶり!いやー、本当は観客席で見ようと思ったんだけど、人だかりすっごくて中々見えなかったからさ。こっそり舞台袖来ちゃった」 「もし先生に見つかったらどうするつもりだったんですか」 「まぁ何とかなるだろ、俺この部活の部長だったんだし!」 あはは!と豪快に口を開けて笑う部長は、あの頃と何1つ変わっていない事が窺える。しいて変わった所といえば、髪色が少し茶色くなり、雰囲気がそことなく大人っぽくなった点だろうか。それ以外は見事に変わっていない。 「にしても、あいつらの人気更に上がってんじゃね?歓声すっごいな」 「私は桑原君しか認めませんが」 「出たー、田代ちゃんのジャッカル贔屓」 今流行りの曲に軽くダンスを加えて歌ってるあの人達は、女子生徒からは黄色い悲鳴、男子生徒からは声援を受けている。真田君のダンス姿の何処に興奮する箇所があるのか私には皆目見当も付かないが、嬉しい人にとっては嬉しいのだろう。 そうしてステージを見続ける事数十分後、全曲を歌い終えたあの人達がこちらに向かって走り寄って来た。成功した事への快感で笑顔だったその表情は、私の隣にいる前部長の姿を目で捉えるなり瞬時に驚愕へ変わり、気付いた時には私まで一緒にもみくちゃにされていた。逃げればよかったと今更後悔。 「何でいるんすかー!わー!久しぶりッス!」 「おー切原、背伸びたなー!丸井は…相変わらずちっさいな」 「先輩、俺泣いても良いッスか!」 「お久しぶりですね。いつからいらしていたのですか?」 「おう、久しぶりージェントルマーン。ついさっきだよ」 騒がしく質疑応答を繰り返しているこの人達の輪から何とか抜け出し、同じく輪に入っていない柳君の隣に近寄る。その時に目線を送られたので、とりあえずお疲れさまと声をかければ、無言で頭の上に手を乗せられた。 「ずっと部長と此処で見ていたのか」 「あぁ。あのステージ下で立ち見する体力は無い」 「だろうな」 そこでチラ、と輪の方へ目を向けると、さっきよりは落ち着いたのか前部長の隣には幸村君が立っていて、何やら雑談でもしているようだった。それを他の人達は頷きながら聞いている、という感じだ。 そこで柳君は「あれならもう輪に入ってもいいだろう」と言い出したので、私もその背中に続き彼らの輪の中に再び入る。 「にしても先輩大人っぽくなったッスねー!かっこいいー!」 「もっと褒めてくれてもいいぞ!」 「今日はどれくらいいるんですか?」 「お前らに会いに来たようなもんだから、もう帰るぜ。用事もあるし」 えー!と声を上げて残念そうにする丸井君と切原君に、前部長は苦笑しながら言葉を続ける。 「これから彼女とデートなんだわ」 その言葉を放った時の前部長の視線は、何故か幸村君にがっつりと注がれていた。一瞬驚いた顔をした幸村君は、すぐに彼にしては珍しい眉を下げた笑みを浮かべ、「精々楽しんで来て下さい」と声をかけた。 そうして前部長は卒業式の日と同じように幸村君の腕を掴み、私達には手を振って玄関の方へ向かっていった。 「また精市が捕まったな」 「ま、積もる話もあるんじゃろ」 「ほんじゃ俺らは戻るとすっかー」 それに続くように皆もワンテンポ遅れて歩き出し、熱気が籠った体育館を後にする。 「お前まさか進展なしとか言わないよな?」 「…そのまさかですけど何か」 「えぇええぇー!?」 別に気になる訳じゃないが、前部長と幸村君はそんなに何を話す事があるのだろうと不思議に思った。 |