「で、このクラスの展示場所が決まった訳ですがー」 5月某日。部活内でそろそろ何を展示するか決めようと話し合い始めた今日この頃、教室内でもようやく学祭の話題が出された。実行委員である男女2人は何とも言えない表情で教壇に立っていて、果たして2人がこれから言う事は俺達にとって良い事なのか悪い事なのかあまり予想が付かない。 「正式なくじ引きの結果、我らが3年E組は、校庭が展示場所となりましたー!」 えー!、と口々に言った生徒達の声には、非難と歓喜の両方が含まれている。俺達の中で言えばブン太は俄然張り切っていて田代と仁王はその真逆、といった所だろうか。他の奴らはどっちでもいいのか特別な反応は示してない。 「めっちゃ広いじゃん楽しそうじゃん!もっと喜べよぃお前ら!」 「校庭は流石に規模でかすぎだろー!?去年ビンゴ大会かなんかやってたクラスあったけど、大して集まってなかったぜー?」 「でもウチのクラスにはテニス部がいるじゃん!絶対女子集まるってー!」 賛否両論の意見が飛び交う中、ちゃっかり俺達がダシに使われる事が決定されて思わず蓮二と目を合わせて苦笑する。まぁ、俺達全員がいるクラスなんて立海に入学して以来初めてだし、そりゃあ他の女達が浮かれるのも無理はないか。ここまで来ると半分諦めだ。 それに、いくら否定派がいるとはいえもう決まってしまった事は変えようがない。実行委員はそこの所を今一度説明した後、早速展示について何か案が無いか全員に問いかけ始めた。「屋台!」「パレード!」「お化け屋敷!」「縄跳び大会!」「屋台!」って、ブン太の奴どんだけ食べ物しか頭に無いんだよ。 好き勝手に発言する生徒達に、元より統括力があまり無い実行委員2人は見事に狼狽し始めた。流石に見ていて気の毒になるレベルだけれど、残念ながら俺にこの場を覆すような名案は持ち合わせていない。だからそのまま何もせず傍観していると、蓮二は仕方なくといった感じで片手をスッと挙げた。一気に全体の雰囲気が引き締まるのを体感する。 「折角校庭という場所を振り分けられたのなら、その場所でしか出来ない事をしなければ意味が無いと思います」 「あー、確かにそうだよなぁ。屋台っつーか食いモン売る事なんて教室でも出来るしなぁ。んじゃあ大食い大会とか?」 「おまんは1回食べ物から離れんしゃい」 ブン太と仁王のやり取りで幾分が落ち着きを取り戻した教室内だけど、生徒達はそのまま「うーん」と頭を捻らせ考え始めてしまった。振りかかって来た沈黙にやっぱり実行委員は困ったように眉を下げている。 と、その時だった。 「迷路」 聞き逃すはずのない凛とした声が教室内に響き渡り、その声に全員が顔を上げて反応する。 「巨大迷路」 「迷路…良いかも!昨日テレビでやってたよね、巨大迷路から脱出せよとかいうやつ!」 「そう。それを見て思い付いた」 「おー名案じゃん!楽しそうだなそれ!」 1人が賛同すればまた1人と、天の一声というに相応しい案を出したのはまさかの田代だった。任されればそれなりにやるものの、普段自発的にこういう場で意見を出さない田代が急に喋り出したものだから、俺はただただ驚いてその後ろ姿に見入った。そしてその間にも巨大迷路という案はクラスのほとんどの支持を得て、俺達の展示は巨大迷路に即決した。 それから迷路制作に使う費用や道具などを軽く話し合い、この日のHRは幕を閉じた。チャイムが鳴って休憩に入った途端、当たり前のように俺達は田代の机に集まる。 「まさか田代が案出すとは思ってなかったからびっくりしたぜ。しかも名案だしな」 「桑原君にそう言って貰えると光栄だ」 「流石だ田代!それでこそ我が立海テニス部の、」 「弦一郎うるさい。田代、お前もこういう行事に積極的に参加するようになったのだな」 「別に、昨日たまたま見ていたテレビでやっていた事をそのまま言っただけだ」 「まったまったー!照っれ隠しー!」 くっついてくるブン太を鬱陶しそうに剥がす田代は、助け船を出した自覚が本当に無いのかあまり得意げな顔はしていない(そもそも、田代が得意げな顔をする事自体あんまりないんだけど)。でも、俺が「やるじゃん」と言いながら軽く頭を撫でてやると、表情は変えないものの小さくピースをして来たから、多分役に立てた事はそれなりに嬉しかったんだなぁと思った。ほんっと、不器用な奴。 「先輩達ーー!!俺名案出ました、名案!!」 「なんじゃ、田代の次は赤也か」 「全員でバンドやりましょバンド!楽器演奏出来る奴後輩にいるんで、ね!やりましょー!!」 「全く、次から次へとこのクラスは賑やかですねぇ」 「今に始まった事ではないだろう」 突然教室に駆け込んできた赤也は田代とは正反対の得意げな顔でそう言い出して、俺達はそれを見て全員で笑った。学生生活最後の学校祭、張り切ってやるとするか。 |