「いっやー、悪いなほんと!あれ作ったの俺なんだけど、なんせ寝不足で作ったから確認超適当だったんだわ!」

「そうですか」



ガハハ!と大口を開けて笑う先生を、何とも言えない、どちらかというと冷ややかな感情で見つめる。

朝登校してクラス分けの掲示板に目を通すと、なんとそこに私の名前は無かった。専用クラス以外の全クラスに目を向けても、やはり無い(ちなみに専用クラス制度を思い返したのは昨日だ)。何度確認しても、段々混んで来て騒がしくなって来た事に憂鬱を感じても、やはり無い。クラスが分からない事には何も始められないので、私は重い足を引きずりながら仕方なく、本当に仕方なく職員室に出向いた。で、1番近くにいた先生に事の詳細を伝えると、奥の方からあのクラス替え用紙を作ったという先生が出てきた。とりあえず名前を聞かれ、前のクラスを聞かれ、希望進路を聞かれ。その結果、ただ単に私の名前は記載漏れしていただけだったらしい。クラス自体は決まっているので、ややこしい事にならずに済み良かった。この先生の能天気さは中々鬱陶しいが。



「しかも俺のクラスだ!よーし着いてこい!」

「え゛」

「あからさまに嫌な顔すんな、先生泣いちゃうぞ!」



しかも、この人が担任と来たか。思わず口に出てしまった言葉は今更隠そうとはしない。広く大きい背中を前に、私はうるさい1年になりそうだと確信した。あ、教室に着いたら幸村君に連絡しよう。



***



「田代ーー良かったぁーー田代ーー!!」

「暑い苦しい重い」

「先輩達いいなぁー!!」



結局、田代は俺達と同じクラスだった。まさかこのメンバーの中に田代がいないなんて事は有り得る訳が無い、とは思っていたものの、実際名簿の中に名前は無かったのだから不安になるのも当たり前だ。だから、先生が田代を引き連れて教室に入って来るなり「名簿の記載漏れで名前は無かったけど、こいつもこのクラスの仲間だからなー!」と何の悪びれも無く言った時は、正直張り倒しちゃおうかなと真剣に考えた。俺達の不安を返せ、と声を大にして言いたい。

まぁそれでも、こんなただの偶然という言葉では片付けがたい状況が訪れたんだ。これを有効活用しない手は無い。



「随分と盛大などっきりを仕掛けられたもんじゃ」

「ほんっとカンタの奴びっくりさせやがって!なー田代!」

「わかったから、いい加減離れてくれないか」



カンタ、というのは会話の流れからわかる通り、あの能天気な俺達の担任の事だ。呼び捨てではあるけど、勘太郎という名前を短縮させてあだ名を付けられているあたり、生徒受けは結構良い。

そんな風に新しいクラスの話題で騒ぎ続ける俺達を、赤也は相当羨ましそうな顔で見つめて来た。昼飯の焼肉弁当を食べる手も止まっていて、完全に不貞腐れている事が窺える。



「またそうやって先輩達ばっかで俺だけ置いてけぼりで…もう良いッス」

「なーに拗ねとんじゃ。かわええ奴じゃのうー」

「赤也、寂しいのならいつでも俺の胸に飛び込んでくるが良い!」

「ほら、卵焼きやるからよ」



明らかにからかっている仁王と勘違いも甚だしい真田は無視して、赤也はジャッカルの励ましだけはまともに受け止めた。食べ方は若干ヤケだったけれど、味には満足したのかその頬は緩んでいる。そんな単純で現金な後輩の姿に、俺達はまた笑った。いつ巣立ち出来るのかなー、この子は。

でもちょっと調子に乗りすぎたのか、ブン太の弁当に手を伸ばしたのは流石に失敗だった。食に関しては懐が狭すぎるブン太が赤也のそんな行為を許すはずが無く、一瞬にして俺達の間にはまた喧騒が降りかかって来た。



「食事中くらい静かに出来ないのか」

「ふふ、ちょっと今更すぎるんじゃない?」



そのうるささを鬱陶しく思ったのか、田代は弁当を両手に俺の隣に避難して来た。そして、やっとゆっくり食べられると言わんばかりに箸を進め出す。



「にしても、なんでお前の名前がちょうどよく書き漏れてたかね」

「私が聞きたい。探す時間が無駄だった」

「連絡するのも遅いしさ」

「でも、幸村君には1番にしようと思ったぞ。教室に行ったら居たからその手間も省けたが」



サラッと言われた「1番」という言葉に、別に特別なニュアンスが含まれて無い事は分かっているのに心臓が揺れ動く。だから俺はその事を悟られないように、田代の頭を軽く叩いた。



「楽しい1年になりそうだ」

「…どうだか」



エビフライを口に運びながら返事をした田代の口調は素っ気なかったけど、その口元は微妙に緩んでいた。それを見て、何でこいつはこんなに可愛いんだろうなぁと素で思った俺は、多分結構浮かれてる。
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