「ラジオ体操第一ーーー!!!」 「…何なんだ一体…」 合宿最終日、朝。昨日は、他の人達は最後の夜という事で定番の枕投げなどで存分に遊んだらしいが、私は色々な事があったせいか、幸村君の部屋から戻るなり疲れてすぐに寝てしまった。そういえば寝ている間に何人かうるさい輩が遊ぼう、遊ぼうとしつこく誘って来た気がするが、なんせ寝ぼけていたからどう追い返したのかすら覚えていない。 だから、多分これはその分の復讐なのだろう。何故か今私の部屋には、ラジカセを手に持った謙也を筆頭に、切原君、ジローがラジオ体操をしている。色々と言いたい事はあるが、もうツッコむのも面倒臭い。 「昨日遊んでくれなかったお返しッスよ!晴香先輩の馬鹿ー!」 「せや、俺なんて起こそうと思ったら思っきしはたかれたんやで!痛かったんやからな!」 「折角俺だって起きてたのに、晴香ってば酷いCー!」 何なんだこの騒動。ていうか今何時だ、そう思いながら携帯を開くと、まだアラームが鳴る1時間前の5時だった。こんなにも心の底から消えてくれと思ったのは、多分この瞬間が初めてだろう。 そんな私達の騒ぎを聞きつけて来たのか、ドアからは次々と人が入って来た。だるい面倒臭い眠い。 「お前ら朝からうるせーっつーの!1階の氷帝部屋まで聞こえてんだよ!」 「ほんま、どんだけ爆音でラジオ体操しとんねん…だるいわぁ」 「謙也ぁー、なんでワイも起こしてくれんかったんやー!」 「朝からラジカセしょって何処行くかと思いきや…狸寝入りしとって正解ッスわ」 「低血圧な仁王君が、ベッドの中で非常にご立腹でしたよ。後で怒られる事でしょう」 「ブン太も苛立ってたぜ。なんてったってこんな大がかりな事を…」 宍戸君、忍足君、金ちゃん、財前君、柳生君、桑原君。後ろからは更に、朝練をしていたのであろう景吾君、蔵ノ介、真田君もやって来て、ギャーギャーワイワイガヤガヤと非常にうるさい。 もう一度言おう、うるさい。 「───出てけ!!」 寝起きでよけいに機嫌が悪かった私は、いよいよ堪忍袋の緒が切れ、枕を主犯格の謙也に投げつけてから大声で彼らにそう言い放った。桑原君は謝って来てくれたから良しとする。他の人達は気まずそうな顔で、何故かしょんぼりとしながら出て行ったが、そんな事知るか。こうなるのがわかっているならば最初からしなければいいのだ。 彼らが出て行き静かになった室内にて、さぁもう一度寝ようとベッドに潜りこんだものの、大声を出してしまったせいか私の目は既にバッチリと冴えていた。泣きたい。 *** 「なんや晴香、朝から大変やったみたいやなぁ!俺と小春は朝もラブラブやったから気付かんかったでぇ!」 「やだもう、ユウくんったらっ!」 「…」 あれから朝食も食べ終え、私達は閉会式を行う為に1番最初にも集まったロビーに集合している。そんな中私は朝の騒動に未だに頭を痛めていた訳だが、お構いなく話しかけて来たユウジと小春により更に頭を抱えざるを得なくなった。お願いだから空気を読んで欲しい。 そうしてしばらく2人の相手をしていると、ふいに仁王君と丸井君が私を挟むようにしてボスッと座って来た。突然の事に、目の前にいる2人も驚いた顔をしている。 「どうしたんだ、2人共」 「赤也達のせいで寝不足なり」 「ただでさえ寝るの遅かったっつーのに…バスん中爆睡間違いなしだぜぃ」 「その切原君は何処にいるんだ」 「各校の部長達のお説教を食らっとるぜよ」 「そういえば謙也も何か呼ばれとったわぁ。残念ながら、自業自得やねぇ」 小春の言葉にうんうん、と深く頷くと、仁王君と丸井君ははぁーっと深い溜息を吐いた。よほど騒音で起きたせいで目覚めが悪かったのだろう。これ以上いると八つ当たりされかねないと思ったのか、小春とユウジはいそいそと私達の前から去って行った。あ、ずるい。 「明日から学校だなー」 「早いのぅ」 「そういえばそうだったか」 「しかも発表あんじゃん!」 「何のだ?」 「クラス発表だよ!」 すると、しばらく沈黙が続いたところで、丸井君は興奮しながらそう言った。そうか、3年になるのだからクラス替えがあるのも当たり前か。少し考えれば分かる事を改めて思い返しつつ、私と仁王君はそういえばそうだった、という風に相槌を打った。 「また中3の頃みてーなクラスになんねーかなぁ」 「なったら面白そうじゃが、ブンも田代も文系じゃろ?」 「あ、そっか。その時点で無理か」 「仁王君は理系だったな」 「理系は後柳生しかいないなり。寂しいのう」 確かに、丸井君と仁王君とまた同じクラスになったらそれはそれで楽しそうだ。 でも、彼らと同じくらい、───またはそれ以上に、同じクラスになったら良いなと思う人が1人いる。理由は分からないが。 「おい、田代ー?ボーッとしてるぜぃ?」 「寝不足で具合悪いんか?」 「いや、何でも無い」 そこまで考えてハッとした私は、2人の質問になるべく動揺せずに淡々と答えながら視線を逸らした。でも、逸らした先には朝問題を起こした3人を景吾君、蔵ノ介と共に叱っている彼の姿があって、よけい動揺した。…だから、何でだ? 「大したものだな、精市」 そんな私を遠くから見ていた柳君が呟いた言葉は、誰も知らない。 |