「マネージャー1人は何かと大変だろうけど、よろしく頼むな」

「なんか出来る事あったらサポートしますわ」



そしてペンションに到着し、今私達はロビーで氷帝の到着を待っている。そんな時に声をかけてくれたのは、すっかりそれぞれの学校の苦労人となってしまった桑原君と光だ。此処に氷帝もいたら恐らく話しかけてくれたのは宍戸君か滝君か、としょうもない事を考える。

2人の気遣いに礼を言った後に視線を移すと、前の方で幸村君と柳君と蔵ノ介が話し合っているのが見えたから、一応聞いておこうと思い私はそっちに移動した。しおりを持っているところからして、多分それなりに大切な事を話し合っているに違いない。



「何か気を付けた方が良いこととかあったか」

「あ、田代。グッドタイミング」



幸村君と蔵ノ介の間に入って言葉を投げかければ、幸村君はそう言いながら私に微笑みかけて来た。それに蔵ノ介も便乗するように背中を押して来て、早々と4人で1つの輪が出来る。私は今しおりが手元に無いから幸村君のを覗き見るように踵を浮かせれば、彼は少し手の位置を下げて見やすいように配慮してくれた。ありがたい。



「特に変更点は無いんだが、叔父から聞いた話によると一部の建物が老朽化しているらしい。場所は此処あたりだ」



柳君はしおりの中にあるペンションの案内ページを開き、一部の箇所に赤ペンで丸印を書いた。その場所は最上階の4階の端にあるベランダで、まぁあえて行こうとしない限り出向く場所でもないから、そこまで心配する事も無いらしい。ただ念の為に、という話だ。だから私も軽い気持ちでその注意を聞き入れた。



「食事は支配人が用意してくれるから、田代はコートに集中していていい。ただ後片付けは自分達で行う事が鉄則だ」

「なんやねん支配人て、金持ちは氷帝だけやないんかい」

「蓮二はボンボンだからねー、俺もそれなりだけど」

「さらっと腹立つわー」



私は庶民派だから柳君と幸村君よりも蔵ノ介と同意見なので、彼に合わせるように頷く。確かに、こんなに広くて綺麗なペンションにたかだか高校生の部活合宿で泊まれる学校なんて、本来早々無いだろう。今回は柳君の叔父が所有しているからというゆかりもあるが、それにしても、だ。



「おいお前ら、待たせたな」



その時、玄関の方から高々とした声が響いた。相変わらずの声に私達は一度目を合わせるなり、軽く噴き出すように笑ってからそちらの方に足を向けた。と、その前に。



「幸村君」

「どうしたの田代」

「それはこっちの台詞だ」



バスの中でも感じた通り、やはり幸村君の様子がどことなくいつもと違う。それこそ意識せずに見たら何ら変わりないが、少し、ほんの少しだけ目が虚ろでぼんやりとしている気がする。だから私は景吾君の元へ行こうとした幸村君の腕を掴み、その動きを止めた。蔵ノ介と柳君は一瞬こっちを見て来たけど、いつまでも景吾君がうるさいから仕方なしにそっちへ行った。

そして幸村君は私の言葉に驚いたように目を見開いたがそれも一瞬で、すぐにいつもの笑顔を繕った。



「何も無いってば」



さ、行くよ。そう言って幸村君は私の腕を取り、前にいる2人に続くように歩き始めた。なんだか少し、嫌な予感がする。



***



「うっひょー!!すっげー!!」

「丸井君丸井君っ、早く打ち合おー!」



開会式のような集会を軽く済ませた後、彼らと晴香は自分の荷物を各々の部屋に置くなり、早速ペンションに隣接しているテニスコートに来た。コートの数はそこまで多くは無いものの整備は万端に行き届いていて、更にはとても綺麗な大自然が目に入ると早速丸井と芥川は騒ぎ出した。各校の部長はどの学校がまずコートを使うかなど指示を出そうと思っていたのだが、既に騒ぎ始めている者達を見る限り、どうやら必然的に彼らを優先しなければいけない状況になってしまったようだ。



「しゃーないやっちゃなぁ」

「落ち着かんたいねぇ」

「全くです」



侑士、千歳、柳生の言葉に他の者も同意するように頷く。そんな空気を壊すように仕切り直したのは、やはり跡部だ。



「柳、コート以外に練習出来そうな場所はあるか」

「この辺り一帯は自然に囲まれているからな、体力作りの面では山登りなんかも良いかもしれない。ペンションの裏に行けばプールもある」

「だから水着が持ち物の中に入っとったんやな。どんだけ広いねん此処」



あまりの広さに一氏が眉を顰めながら辺りを見渡すと、彼の隣にいる小春も「せやねー」と、乾いた笑みを漏らした。庶民派が多い四天宝寺にとってこの光景はあまりにも不慣れだったのだろう。反面、氷帝はこういった規格外の豪華さは身近に跡部が居る事で見慣れているので、至って普通な表情を浮かべている。立海は過去にも此処に訪れたことがあるので言わずもがなだ。



「中学の頃は1日でコート、プール、山全部使ってトレーニングしたのう。あれはキツかったなり」

「うむ。だが、今年は中学の頃と違って2日間泊まる事になっている。鍛錬を怠るつもりは毛頭無いが、1日で全てをやり遂げる事も無いだろう」

「あれは少々時間に追われ過ぎていましたね。着替える時間も勿体無かったですし、汗にまみれたユニフォームをもう一度着るというのも中々気が引けました」



真田が言った通り、中学の頃に行われたこの合宿は1泊2日の要領だったようだ。立海の経験談に他の者は頷き、結果、プール組、登山組、ランニング組に分かれる事になった。晴香はタオルやドリンクの手配をする以上登山組に着いて行く訳にはいかないので、彼らにはあらかじめその2つを配布しておくことにした。いよいよ本格的なトレーニングの始まりだ。



「皆、行ってらっしゃい」



晴香の言葉に彼らは各々返事をし、その場には誰もいなくなった。そんな中晴香は、登山をしに行った幸村の背中を何処か不安げな表情で見つめていた。
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