「夏と言えばやっぱ流しそうめんっちゅー話や!」 「俺1回やってみたかったんだー!超楽しみだCー!」 8月。夏真っ盛りの今時期は、ついこの間先輩達の最後の全国大会を終え、大抵の部活は世代交代に入っている。立海のテニス部が強いのは高等部でも健在な為、先輩達と私達の代の中からでは三強が見事優勝旗を掲げる事が出来た。ここまでは去年と同じパターンで、問題は来年からだ。いよいよまたあの頃と同じように、私達の代が始まる。 と少し緊迫した雰囲気が出ていた矢先、四天の皆から立海と氷帝に「流しそうめんをしよう」、という声が掛かったのはつい3日前の事だ。唐突に決まったにも関わらず今こうやって景吾君の家で全員集まれているのは、もはや奇跡に近い。 「晴香久しぶりねー!ちょっと身長伸びたんじゃないのー?」 「あぁ、久しぶり。この前の身体測定では伸びていた」 「えぇなー、ワイももっとごっつ大きくなりたいねん!」 相変わらずの笑顔を浮かべながら話しかけて来た小春と金ちゃんに返事をすれば、わらわらと他の人達も集まって来た。この日の為だけに流しそうめんセットを購入した景吾君は、真田君と物珍しそうにそれを見ながらも、蔵ノ介と謙也の手を借りながら頑張って準備をしている。 「こんな本格的な流しそうめんとか初めてだぜ!お前んとこいっつもやってんの?」 「先輩達がやろうやろううっさいねん。せやから仕方なく」 「準備も片付けも面倒くさそうだな」 「まぁまぁそう言わずにさ!折角だから楽しもうよ!」 「ウス」 切原君、光、日吉君、鳳君、樺地君と各校の2年生達が輪になって話してるのを見て、つい先日景吾君とした電話の内容を思い出し、私は人知れず笑みを浮かべた。後輩トークであんなに盛り上がったのは初めてだったな。 そうこうしているうちに、跡部家のメイド達から大量の茹で上げられたそうめんが運ばれて来て、皆は一気に歓声を上げ場は大盛り上がりとなった。私は盛り上がるよりも前にまずつゆが入ったおわんを手に取り、我先にと勝手に決めた定位置に立つ。ちなみに1番麺が取りやすい位置だ。 「お前、食い意地張りすぎだろ」 「今に始まったことじゃあらへんけどな」 「田代、独り占めは駄目だからな」 「…わかった」 宍戸君、忍足君、柳君の言葉に渋々頷き、仕方なくもう少し皆がとりやすくなる場所に移る。その直後水と共にそうめんが流れて来て、流しそうめん大会は幕を上げた。 「あークソクソッ!晴香っ、その束俺が取ろうとしてたんだぜ!?」 「早い者勝ちだ」 「やるねー」 バシャバシャと水を飛び散らせながらそうめんを取ろうとするこの人達の隙をついて、私は静かに淡々と箸を伸ばしていた。丸井君なんてもうわんこそばの勢いで食べている。 「晴香、美味かとね?」 「あぁ、美味しい」 「いつも大会が終わった後にやるねんけど、どうせなら全員でやった方が美味いやろ思てなぁ。誘って良かったわ」 少量ずついちいち取るよりもいっぺんに取ってしまった方が楽な事に気付いた私は、おわんに沢山のそうめんを入れるなり皆の輪から一度離れた。そんな私に着いてくるように輪から抜け出して来たのは、千里と蔵ノ介だ。2人もおわんにてんこ盛りに盛っていて、麺をすする音が食欲を掻き立てる。 「にしても跡部、わざわざセットを買うてくれるとは思わんかったわー」 「こら来年も開催決定ばいね」 「来年だけなのか?」 そこで2人が話し始めた会話になんとなく入ってみると、2人は私の言葉を聞いて目を合わせるなり、一度食べる手を止め笑顔でわしゃわしゃと頭を撫でて来た。いきなりされたよくわからない行動に、そうめんを咀嚼しながらも首を傾げる。 「少しは素直になったみたいやな」 「ほんまばい」 あまりにも2人が嬉しそうに話すからそれ以上は何も言わなかったけど、中学の頃までは立海だけでやっていたあの焼肉は、今年から皆でそうめんに変わるんだな、と思った。まぁ、それも悪くない。 「お前らしっかり食えよ!」 自分が用意した事が誇らしいのか、景吾君はやけに自慢げな表情でそう言い放った。それに対し他の人達は笑いながらも、イエッサー!とお馴染みの言葉を返していた。変わらないなぁ、と思った。 |