「よぉ、久しぶりだな」

「あぁ」



家に帰りご飯を食べ、寝支度を済ませ自室で一息吐いていた時、あまり鳴らない携帯が珍しく長時間振動した。その時間の長さでメールでは無く電話だと察した私は、ベッドから重い体を起こし画面を確認した後に通話ボタンを押した。電話の相手は景吾君で、割と久々に聞く声に少しだけ気持ちが舞い上がる。



「元気だったか?まぁ聞くまでもねぇだろうが」

「あぁ、相変わらずだ。景吾君も元気そうで何より」



彼はつい最近、2年になるなりまたもやテニス部部長と生徒会長に就任したらしく、それは多忙な日々を送っていたらしい。その事はジローや他の氷帝の人達から聞いていたが、結構連絡を頻繁にして来る彼にしては確かに音沙汰が途絶えていたから、多分本当に忙しかったんだろう。

そして景吾君は連絡をとっていなかった間の事をつらつらと話し始めた。内容の無い会話ではあるが相手が彼だとそれも苦ではなく、近況報告を出来た事に安心さえ感じる。



「テニス部には鳳君と日吉君と樺地君も入って来たんだろう?」

「当たり前だろ。日吉の奴に今度こそは下剋上してみせる、とか早速言われたぜ」

「彼らしい。切原君はどっちかっていうと幸村君には甘えている」



景吾君が2年生達の事を話すように私も切原君の事を話すと、結果、電話口は笑い声が絶えなくなった。後輩を気にかけてしまう性分は氷帝も立海も変わらないらしい。



「向日が背が伸びないだのなんだの嘆いてやがった」

「それは丸井君も言ってた。彼だけ170センチ無いんだ」

「立海は平均が高ぇな」

「でも幸村君ももう止まったって言ってた」



それからも宍戸君が余計熱血になっただの、真田君が最近言葉を噛むようになっただの、忍足君のポーカーフェイスが崩れて来ただの、柳生君が紳士じゃなくなって来ただの、それはそれはくだらない事を私達は至極楽しく話した。で、話す事約30分くらいだろうか。会話に区切りがついた所で電話を始めてから初めての沈黙が振りかかって来て、そろそろ切り時か、と言葉を切り出そうとした時。急に景吾君は「12回」と言い出した。何の脈略も無く急に告げられたその数字に勿論私は疑問を抱き、「何がだ」と景吾君に問いかける。



「無意識だろうとは思ってたが、やはりな」

「だから何がだ」

「お前が幸村の話題を出した回数だよ」



いつもの調子で自慢げに笑って来た景吾君に問い詰めるように言葉を続ければ、次にそんな事を言われた。まさか言われるとは予想して無かったそれに、一瞬言葉に詰まる。



「随分と親しくなったみてぇじゃねーの?アーン?」

「いや、確かに仲は良いが。そんなに出してたか?」



自覚が無かっただけに景吾君が放った数字は中々信じられずそう聞き返したが、返事はやはり同じものだった。いや、幸村君の話題が多い事が決して悪い事では無いのだが、彼の話題だけずば抜けて多い理由もよくわからない。だからその理由をしばらく考えたものの、結局答えは見つからずじまいだった。



「まぁ、今はそれでいいんじゃねぇの」

「どういう意味だ?」

「そのうちお前でも気付く時が来る」

「だから何がだ」

「それはお前が気付かなきゃ意味ねーよ」



今日の景吾君はやけに言葉を濁すな、と若干不機嫌になりつつも、こうなった彼はもう口を割ってくれないだろう。それを察した私は諦めて溜息を吐き、「それじゃあまた近いうちに」と締め括りをした。



「あぁ、じゃあな」

「おやすみ」



ピ、と電源ボタンを押し通話を終了させる。

途端に襲って来た眠気に逆らう事無くベッドに寝転がり、そこで特に何の意味もなし携帯を再び手に持った。ピ、ピ、と適当に弄っていると画面には着信履歴が表示されて、今電話をしたばかりの「跡部景吾」の何個か下に「幸村精市」があるのを見るなり、何故か私は発信ボタンを押していた。コールが鳴り響く前になんでこんな事してるんだ、と我に返ったので結局通話をする事は無かったが、頭の中には景吾君のあの言葉が反響し続けていた。

私、幸村君ネタの話そんなに持ってただろうか。
 3/3 

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