でも分からないでほしい



「せんぱぁああぁあい!!!!」



ドスッ、と相変わらずの勢いで抱きついて来た小柄な体をなんとか受け止め、精一杯込められた力の強さに若干冷や汗をかく。



「聞いて下さい先輩ー、身長伸びてなかったんですよぉおおー」

「いいんじゃないか、女の子らしくて可愛い」

「先輩に可愛いって言ってもらえたぁああぁ!!!」



しかし私のそんな気持ちをこの子、大塚さんが知り得るはずもなく、彼女は私の言葉に更に舞い上がったように表情を綻ばせた。まさか学祭準備期間中に和解して以来こんなにも懐かれるようになるとは、誰が予想しただろうか。今年入学してきた中で賑やかなのは切原君だけではなかったらしい(まぁ、そもそも親しい後輩など彼とこの子しかいないのだが)。

ちなみに、今日此処、立海大附属高等部では、全校生徒一斉に健康診断が行われている。学年ごとに時間差をつけて行われているが、身長と体重、視力、歯、内科を測定、診察する教室は色々な教室に設けられている為、このように他学年と廊下でばったり会う事はさして珍しくない。



「田代ー、終わったー?」

「あぁ、終わった」

「んじゃ提出しに行くぜよ」



そんな風に適当に大塚さんの相手をしていると、前方から診断書をヒラヒラと掲げた仁王君が歩いて来た。今年同じクラスになった彼は何かと行動を共にしてこようとして、正直鬱陶しい時もあるが同時に中3の頃を思い出すので、ほんの少しだけ楽しくなったりもする。

そして未だに腰に抱き着いている大塚さんをやんわりと離し、名残惜しさを全面に出されながらもその場を離れ、仁王君と健康診断書の提出場所である自分の教室に向かう。



「うおーいっ!お前ら良いとこにいたーっ!」

「ぐふっ」



他愛も無い話をしながら歩いていると、再び体に衝撃が走った。私と仁王君の背中に覆いかぶさるように乗っかってきた丸井君は、大塚さんとは体格(というか体重)の差があり過ぎるので勿論その衝撃も先程とは比べ物にならない。もうこの衝撃は何年と受けてきているが、不意にこられると思わず変な声が出てしまうのは直りそうにないだろう。

という私の心の声など露知らず、丸井君は私達の間に割り込み診断書をバッと広げてきた。一歩遅れて私の隣に来た、彼と同じクラスの桑原君と目を合わせ苦笑した後に、その広げられた診断書に視線を移す。



「見ろぃ!身長166センチ!2センチアーップ!!」

「で、体重も2キロアップの64キロか。仁王君はどうだった?」

「178センチになってたぜよー。体重はブンより1キロ軽い63キロじゃ、田代は?」

「164センチ44キロだった。丸井君と20キロ差だ」

「やっべーすっげぇ殺意沸いて来たんですけどー」



私と仁王君の茶化しに丸井君は不機嫌になり、そんな彼を桑原君がなだめ、いつも通りの会話の流れに思わず笑いそうになった。それは仁王君も同じなのか、堪えるように肩を震わせている。



「デブン太健在なり」

「ぶふっ」

「よし、お前らシメ決定ー。丸井行きまーす!!」

「おい、あんまり騒ぐなよ…って、聞いてないか」



が、仁王君が本音を言ったせいでその笑いは堪えきれなくなり、盛大に噴き出してしまった。それに青筋を立てて怒り出した丸井君は私達に飛び掛かってこようとしたので、その前に全力で走り出して逃げる。桑原君ごめん、君の注意は無駄にしたくなかったけどそういう訳にはいかないようだ。

数メートル走ってから、丸井君がどれだけ近くにいるかを見る為に後ろを振り向くと、遠くの方で大塚さんと、何故か幸村君が一緒にいるのが見えた。ちょうど仁王君が迎えに来て、大塚さんとは別れた教室の場所辺りだ。



「幸村先輩なんで教室から出てこなかったんですかー?」

「俺測定してたし」

「嘘ばっかり。ずっと教室の中で立ち往生してたでしょう」

「…別に」



今日の測定結果では全く衰えてなかった視力を駆使した結果、幸村君は楽しそうに話す大塚さんとは裏腹に不貞腐れた表情を浮かべていた。別に気になる訳ではないが、あの2人はそんなに冗談を言い合えるほど仲良くなったのか、となんとなく思った。
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