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「痛いなーもう」



悪態をつきながら起き上ると、隣に幸村はもういなかった。昨日床でヤッたのとその後ベッドでも何回かしたのが効いて珍しく全身が軋むように痛い。でも、昨日の感じから察してこの関係もそろそろ潮時かなぁと思う。ていうか色々潮時だ。

時刻は午前7時10分前。二度寝はせずにそのまま服を脱ぎ捨て、シャワーに入る前に全て洗濯機に放り込む。暑めのシャワーで頭の先からつま先までを暖め、ガウンを羽織り朝食の支度を始める。トーストにヨーグルトのみという簡単なものを食べながら携帯を手に取ると、新着メールのお知らせが何件かあった。受信ボックスを開くとそこには白石の文字がある。



「(結局私は行く感じなのね)」



内容は、カフェでランチをとっている時に話していた彼らの同窓会についてだった。「来週の金曜、仕事帰りにやるからよろしゅう!」だってさ。私2次会があれば行くって言わなかったっけ、まぁ出勤してから直接聞けば良いか。という事でこのメールは流して、メルマガ2件もぱっぱと流して、もう1件の未読メールに目を通す。

 おっ?

思わず、口元に持って行きかけたヨーグルトをポトリ、とお皿に落とす。

 明日の夜時間取れないか。

そんな用件のみの短文で送って来た奴は、最近あまり見ていないあの人物からだった。メールが来たのは昨日の23時過ぎだから、という事は今日の予定を聞いてるのか。最近は色々目まぐるしくて連絡が来ていなかった事さえ忘れていたけど、そういえば随分と会うのは久しぶりになる。そこまで考えてからとりあえず了承の返事を送り、残りのご飯をゆっくりと噛みながら胃に収めた。



***



「聞いたとよ、来週の飲み会豊崎も来るけんね」

「なんか知らないけどそういう事になったっぽい。お邪魔しまーす」



コピー室でたまたま会った千歳はそう言うとくしゃりとした笑顔を浮かべ、私なら大歓迎だと言ってくれた。出勤してから白石に2次会しか参加しない予定だった事を伝えたけど、彼の中ではもう決定事項なのかそれはあっさりと流された。よって私も来週行く事が決まり、腰が重いようなそうでないような。



「千歳さん、これ何回やっても位置がズレちゃって」

「そりゃそうばい、そもそもの線が違う」



そこでもう1つのコピー機を使っていた長太郎君が、泣きそうな子犬の目で千歳に助けを求めて来た。すっかり彼の扱いになれたらしい千歳は慣れた感じでよしよしとなだめ、無事コピーを終え一安心。あいつの要領の悪さは群を抜いています、と若君がいつだか愚痴っていたように、どうやらその弱点はまだ改善されていないらしい。



「おぉなんだよお前ら、揃いも揃って」



とそこで入口から入って来たのは、少ない資料を片手にヒラヒラさせている丸井だった。先輩の人目が無いからといっておもむろにガムを取り出しクチャクチャ食べ始めた彼に、私達は顔を合わせて笑う。



「そういえば豊崎も来週来るんだろぃ?」

「今千歳ともその話してた。完全に部外者だけどね、よろしく」

「んなもん関係ねーって、ほとんど知り合いばっかだろうし」

「だと良いけど」



そこでコピー機をチェックしたら、あと100枚刷れば私の仕事は終わる所だった。だからその間をこの人達との会話で埋め、あっという間に残り10枚と表示された時、不意にポケットの携帯が震えた。

 19時に銀座駅前で。

それだけが書かれたシンプルなメールに私も一言だけ返し、するともうコピーは全部終わっていた。倍量になった紙を両手に取って、未だに作業をしている3人に声をかける。



「じゃあ終わったからお先に」

「おう」



それにしても、一体何の兆だろうか。
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