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「思ったよりも元気そうで安心した」

「だから言ってたじゃない」



葬儀関係全ての片付けが終わり、約束の土曜日。18時に待ち合わせして柳が予約しておいてくれたというイタリアンに入り、注文を一通り終えてから一息吐くと、柳は心底安心したような声色でそう言った。運ばれて来たワインをお互い控えめに掲げて、口を付ける。



「昨日出社した時も色んな人に聞かれたからびっくりした」

「お前が3日間いないとなれば誰かしら気付くからな」

「皆頑張るなぁ」



これは冗談抜きで、昨日は普段あまり話さない人にまで話しかけられたりして中々面倒臭かった。理由が理由なだけにあまり深くはつっこまれなかったにせよ、あの「心配してるからいつでも話してね」オーラを何人にも出されるといい加減ウザい。それを出して良いのは普段私と話しているこのイケメン達だけだ。

というのはおいといて。今日は土曜日のせいか店内は若干混んでいるけれど、私達のタイミングが良かったのか料理は割とすぐに運ばれて来た。リゾットやピザなどを2人でシェアして食べる。柳には和食のイメージがあったから此処を選んだのは意外だ、と言うと、以前幸村に連れてこられて以来此処にはよく来るらしい。さっすがー。



「白石と不二にも心配かけちゃったから、月曜はちゃんと展示見に行こうね」

「仁王も心配してたぞ」

「そっか仁王も行きたいって行ってたか。連絡しておかなきゃ」

「あ」



新しく運ばれて来たアヒージョをすくいとった瞬間、私達の元に影が振りかかった。誰だろうと思い2人で横を見上げればそこには、いつものような笑顔を浮かべていないキヨがいた。何か不都合な事があったんだろうかとは思いつつもとりあえず挨拶をするものの、彼の隣にいる女は私の顔を見るなりギョッとして目を剥いた。



「え、え?清純、え?」

「奇遇だね。それじゃ、また!」



かろうじて最後は笑顔を繕って来たけれど、勿論それが偽物な事くらい柳だって気付いただろう。私を見て酷く困惑した女は、そのまま引き摺られるようにして違う席へ行った。

一体何だったのか。そう思ったのは柳も一緒で、私達は一度食べる手を止め2人に視線を送る。



「私の顔になんか付いてる?」

「いいや。あいつにしては珍しい態度だな」



まさか、女と2人でいる所を私に見られて気まずいという訳でも無いだろう。そんな事で動揺するような男では無い。だとしたら、もしかして。1つの推測を頭の中で立てていると、トイレに行く振りでも装ったのかキヨがまた私達の元にやって来た。まず最初に「ごめんごめん」と軽い感じで謝ってから一言。



「大学の頃の友達なんだ。気にしないで」



大学の頃の友達。

そのキーワードとキヨの目線で私の推測は確定に変わり、「そうなんだ」と気にしていない態で返事をしてから今度こそ軽く手を振って別れた。勘の良い柳は勿論私達のアイコンタクトにも気付いてどういう訳かを探って来たけれど、料理に夢中になるフリをしてその話題は逸らした。

つまりあの女は、私が例の私の作成元、もといキヨのセフレとあまりにも似ていたから驚いたのだろう。そりゃあ驚くに決まってるか、早々いない死んだはずの美女が、何ともない表情で男とイタリアンなんか食べてるんだもの。



「いつもの千石らしくなかったな」

「元カノとかかなー?あんまり触れられたくないのかもね」



キヨと女は私達の視界に入らない席に座ったおかげで、その後2人の話題が出てくる事は無かった。でも、確かに視界には入っていないはずなのに、あの連れの女の視線を痛いほどに感じたのは多分気のせいじゃない。
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