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「そして、優秀作品は柳班のデザインに決定しました。おめでとう!」



課長の言葉で私達には盛大な拍手が向けられ、例に漏れずその中に嫉妬が混じったものは無い。純粋な祝福だけが込められたそれに居心地の悪さを感じつつ、私達は立ち上がってそれぞれ会釈をした。

1週間前に発表を終えた私達のデザインは、今課長が言った通り見事優秀作品に輝いた。この他にも何班か出展作品は選ばれたけど、その中でも私達が1位だ。既に私達が利用した3店舗にもその報告は行っているとの事で、きっと彼らの事だから盛大に祝ってくれるんだろう。



「やったな」

「だね」



近くにいた白石と一言会話を交わし、選出者からのコメントを記入する為に課長の元へ歩いて行く。コメントに加え私達の写真も撮られ、これで来年の新入社員もばっちり倍率上がるかななんて現金な事を思う。

そうしてお祭りムードは終わると共に昼休みの時間になったので、私達はそのまま外にランチに行く事にした。通りすがりざまにかけられる聞き飽きた言葉達を軽くいなし、一段と天気の良い外に出る。



「約束覚えてるか」

「うん。いつにする?」



すると柳は、前を歩いている2人には聞こえないくらいの声でいつかの約束を掘り返して来た。なんとなく来るだろうなとは思っていたので特に驚きはしない。とりあえず今日は4人で仁王の店に飲みに行くのが決まっているので、そこから予定を合わせた結果、2人で打ち上げをするのは今週の土曜日になった。行き先は柳に任せる。



「楽しみにしておくね」

「あぁ、俺もだ」



この姿になったからには誰かしらに恋愛感情を持たれるのは予想していたにしろ、実際その立場になるとどうもむず痒い。そんな事を私が思っているとは露知らず、柳は嬉々とした様子で前の3人の輪に入って行った。



***



「んじゃ今日は俺の全額奢り、ちゅー訳にはいかんけど、まぁそれなりにサービスしちゃる」



予定通り仁王の店に来て、珍しくはしゃいだ様子でそんな冗談を言って来た仁王に笑いつつ私達はグラスを合わせた。場所が場所なだけあって仕事の相談や愚痴は仁王にする事が1番多かったから、割と感情移入してくれてるみたいだ。



「展示はいつからされるんじゃ?」

「今週の木曜から。僕達は早速その日に行くつもりだよ」

「俺も昼で営業終わらせて行こうかのぉ」



とはいえそこまで気にかけてくれていたのはちょっと意外で、私と柳は嬉しそうに話す仁王を見て目を合わせ噴き出した。



「なんか仁王今日テンション高くない?」

「それ俺も思っとったわ。なんかあったんか?」



私と白石の疑問はやはり核心をついていたのか、その切れ長な目は一度驚いたように見開かれ、またへにゃりと彼らしくない笑い方で微笑んだ。



「実は今朝、姪っ子が産まれたんじゃ」

「仁王って一人っ子じゃなかったんだね」

「それ思う、私も勝手に一人っ子だと思ってた」

「弟と姉貴がおるぜよ。で、産まれたのは姉貴の方なんじゃけど」



これがえらいかわええんじゃ。そう言った仁王の顔はやっぱり情けなく緩んでて、意外と子煩悩になりそうだなと誰に言うでもなく思う。



「めでたい話やないか、おめでとさん!」

「お姉さんの体調は大丈夫なのか」

「ん、心配いらん。親達も一安心じゃ」



そう言った直後に客が入店して来て、その瞬間仁王はキッと表情を締めて仕事の顔になった。中々良いギャップだ。でも私はそれよりも若干自分の中で引っかかる事があって、良かった良かったと話す3人の会話には相槌を打つだけにし、少し頭の中を整理し始めた。

 親達も一安心じゃ。

 そういえば、私の親って何処にいるんだ?

この世界に来る直前、「馬鹿な親達と離れて暮らしたい」と願ったおかげで私はあの馬鹿でかい家に1人で暮らせている。めちゃくちゃ仲が悪い訳ではなかったにせよその逆でもなく、いつまでも反抗期のような態度をとっていたのはまだ覚えてる。

そのおかげ、はたまたそのせいでと言うべきか、今の今まで親の存在について深く考える事は無かった。あぁそういえばいないな、と買い出しを忘れた程度の感じで思い出す事はあったけど、それを重要視する事は今までなかった。



「ほらほら豊崎、酒進んでへんでー!」

「出たー白石の面倒臭い絡みー」



口ではおどけてみせつつも内心は疑問でいっぱいだ。何故こっちに来て1年以上も経ってから今までいなかった親の存在が気になり始めたのか、…もしかしてこれも偶然じゃない?

別に親としてではなく、この体の出所が何処なのかは興味深い。帰ったらちょっと調べてみようかな、と相変わらず絡んで来る白石の相手をしつつ、1人でそう決めた。
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