20 急な事だったから俺も未だに実感なくてね。去年の4月頃だったかな?その子との関係は大学2年の最初の方で終わってたから聞いたのも人伝えだったんだけど、なんでも変死?だったみたいで。こんな言い方したらアレだけど、結構気味の悪い最期だったみたい。 「どういう事よ」 キヨは気まずい雰囲気にならないよう明るい口調で話してくれたのに、家に帰ってきた今でも全くもって状況は呑み込めてない。ただの偶然で片付けられるのならばそうしたい、けれども彼女が死んだ時期と私がこっちの世界に来た時期が全く一緒なのだ。それに変死というのも更に疑いに拍車をかけているし、一体どうなってるの。何がどうなってるの? 「どうだと思う?」 浴室から出るとそこには男がいて、私はバスタオル1枚を纏った姿でそいつのいるソファに近寄った。「うわ大胆だね」とかほざいてる男の事は勿論無視してもう一度疑問をぶつける。 「まさか生まれ変わり、とかつまんない事言わないでしょうね?」 「うーん、半分当たりで半分外れ」 力んでいた体がフッと緩んだ時、気が付けば私の視界は天井と男だけになっていた。直接的にこいつにこんな事をされたのは初めてだけど、今はそんなのどうだっていい。 「するならするで構わないから、真相を教えて」 「おーっとそういう取引ならやーめた」 途端に男が退けた事により、ソファに滴っていた私の髪から落ちた雫が勢いよく弾けた。こんな体どうなったっていいのに、どれだけ乱暴にされても真相が知れればそれでいいのに!そんな自暴自棄に陥った私の表情は大層歪んでいたのか、男は「そんな表情の女としてもね」と苦笑混じりに呟く。 「1つでいいからその女の詳細を教えて」 「知った所でどうなる?」 「そんなのあんたに関係無いでしょ」 「怖いなぁ」 激昂すればするほど相手の手玉に捕われるのは目に見えてるので、メッタ刺しにしてやりたい衝動を何とか抑え込みながら会話を続ける。すると男はようやく話す気になったのか、再び隣に座ってこちらに体を向けてきた。そのついでにバスローブも肩にかけられ、こいつに気を遣われたのは癪だけど風邪を引くのも嫌なので何も言わずに受け取る。 「死んだ女は君のデザイン元だ。でも生まれ変わりじゃない」 「なんでその女に決めたの」 「1つで良いって言ったよね?」 しまった、あんな事言うんじゃなかった。焦った時に適当な事を言ってしまうのは1番良くないのに状況が状況なだけに抜かった。 「あんたを殺したら私ってどうなるの」 「俺が生きてると思ってるの?」 質問を質問で返される術に即座に対応する事は出来ず、結局男はその言葉を最後に消えた。室内にかかっているクラシックがやけに壮大に響いて、頭の中の混乱はまだ直りそうにない。自分のものじゃない事は最初から承知していたのに、改めてそれを思い知らされると拒否反応が凄まじい。シャワーを浴びて綺麗になったばかりの体に勢いよく嘔吐し、腹の底から出た呻き声は自分でも驚くくらい化け物じみていた。 *** 「景吾ぼっちゃま、こちらでございます」 「あぁ、ありがとう」 ミカエルから几帳面に束ねられた資料を受け取り、出て行ったのを見届けてからそれらに目を通す。 生年月日に職種、趣味、住所などあらゆる個人情報が記載されたそれは、通常のルートでは到底手に入らない代物だ。普段からこの家の裕福さや人脈の広さは痛感しているが、こういうのにも役立つとは便利なような怖いような。そんな自分にしては珍しい感情を抱いた所で、パラパラとページを捲る。 出身大学はS大、都内でもトップの部類に入る大学だ。しかし女子大な為俺の周りにそこに行った者は勿論いないし、知人程度なら探れば誰かしらいるだろうが、自分から女にコンタクトを取る事によってどれだけ面倒な事になるかは充分自覚している。出身から高校までは地方に住んでいたのか、その学校名や地名にあまり見覚えは無い。 ―――徹底してやがるな。 あいつに何が隠されているか、そもそも本当に秘密があるのかすら事実ではないのに、俺はそのデータを見た瞬間まずそう思った。手を付けようにも無難な情報しか入れられないようになっているそれらは、いくら人脈を駆使したとはいえ決定的な何かを掴むまではいかないだろう。 「…これに賭けるか」 学歴だけではなくアルバイトの経歴まで書かれていたそれは、表面的な事ばかりで俺が知りたい所ではなかった。だが、目に留まったある項目にチェックを入れ、パソコンでそれがどの辺りにあるか検索をかける。 両親は地元に在住。 これだけあるデータの中できっかけになりそうなのはそれくらいだった。此処から1番近い羽田空港から何処の空港まで、更にそこからの交通の便などを緻密に調べる。地方とはいえさほど離れてる訳でもなく、4時間もあれば着けそうな距離だ。 こんな事をしてるのが本人にバレたら、あの綺麗な顔はどんな風に歪むのだろうか。そんな考えを持つ事自体大層歪んでいるのだろうが、所詮興味には勝てない。入社してからあまり使った事のない有休を明日には申請すると決め、飛行機のチケットはもう購入した。購入ボタンを押した時に感じたまるで異世界に入り込むような感覚は、ここ最近感じたもので1番居心地が悪かった。 |