02

「(なんっか気持ち悪)」



デスクに向かってパソコンをカタカタと打ち作業をしている自分に、ふいにそんな想いが込み上げた。

前の私ではどれだけ勉強しても届かなかった大学に、今の私は現役で受かって卒業した事になっている。そしてこの憧れの会社に入社してから2週間程が経つけど、苦手だった上司との会話やデスクワークもなんなくこなせているし、頭の回転も前とは段違いだ。そんな自分を凄いと思う反面、気持ち悪くて仕方ない。



「豊崎、この前の報告書書いたか?」

「うん、そこにまとめてある。後これ写せば終わりだよ」

「それなら、一緒に昼飯でも食べに行かないか」

「オッケー」



そんな事を思いながら無表情で仕事を進めていると、柳がランチの誘いをして来た。だから咄嗟に笑顔を繕って対応する。柳とは入社式以来仲良くしてるけど、勿論私のこれまでの経緯は誰にも話していないから、変な所で勘付かれる訳にはいかないのだ。この2週間で柳の勘の強さは充分理解してる。後、



「いいね、それ。僕も一緒に行って良いかな」

「あ、なら俺も行きたいわー」

「私は全然構わないよ」



この2人も。

柳、不二、白石は今年のウチの課の新入社員の中で、群を抜いて仕事が出来ると有名だ。まぁ有名なのは実力だけじゃなくてその人目を引きまくる容姿も関係してるんだろうけど、よく女が色めきたった声で噂してるのを聞くし。ちなみに言ってしまえば同じ理由で私も有名らしい。笑えるー。

話を戻して、2人がそう言って来たのに対し私が適当に返事をすれば、柳もじゃあ4人で行くか、と了承の言葉を放った。そんな訳で私達は昼休みに近くのカフェで落ち合う事を決めてから、再びそれぞれの仕事に戻った。



「良いなー豊崎は、私もあの3人とご飯行ってみたいよー」

「じゃあ一緒に行く?」

「無理無理!恐れ多いってば!」



3人が消えた途端話しかけて来たのは、隣のデスクの噂話が大好きな同期の柴崎だ。柴崎は見た目は別に悪くないのだけれど、勝てるという保証が無い賭けには傍観を決め込む。多分プライドが高いんだろうなぁ、とか勝手に思ってたり。

という事は置いといて、とりあえず昼休みまでに残っている仕事を終わらせる為、既に真剣な表情をしている3人と同じようにパソコンに向かう。前のしがないOLとは違う、大好きなインテリアに携われているはずなのに、何故か心は満たされなかった。



***



そして、昼休み。



「豊崎は本当に仕事が速いよね」

「集中力が無駄にあるだけで、やる事がわからなかったら全然進まないよ」

「無駄はあかんでー」



オープンテラスがあるこのカフェは、カフェランチにしてはボリュームがあって男の胃にも満足なのと、会社から近いという事でウチの社員には人気の場所だ。そのせいか周りには私達の他にもウチの社員がちらほらいて、プチ社員食堂化しつつある。そんな中でも特に気にせずに会話を楽しんで昼食をとっていると、途端にあー!と賑やかな声が耳に入った。



「おったおった、やっと昼休み被ったなぁ!」

「うおー、何かすっげー変な感じするぜぃ!」

「丸井に忍足か」



中からオープンテラスに出て来たのは、金髪の癖っ毛と女顔の赤毛の男2人組だった。課ごとに行った自己紹介の中にこの人達はいなかったはずだから、多分違う課の人達だろうと予測する。



「豊崎、紹介するでー。こっちが俺と同じ学校やった忍足謙也や」

「よろしゅうなー!」

「で、こっちが丸井ブン太だ。俺と同じ学校だった」

「シクヨロ!お前かー噂の豊崎律子って!こっちにまで話題持ちきりだぜぃ」

「よろしくお願いします。2人は何処の課なの?」



テンションの高い2人に対し、色々な人がいるなぁ、と内心思いつつ、とりあえず初歩的な事を問いかけてみる。その結果、2人は宣伝課に所属しているらしい。主にこの会社のポスターやCM作りのデザインに携わっている課、だったかな?何はともあれ、同期の知り合いが増える事は良い事だし、ここは仲良くしておこう。…それにしてもこれまたイケメンだなぁ。何の陰謀ですか。



「間近で見るとマジで綺麗なんだなー。噂が1人歩きばっかしてると思ってたけどよ」

「丸井、素直なのは良い事だけどちょっとストレートすぎるよ」

「いいよ別に、変な気遣われるよりずっと楽」



まじまじと私の顔をお構いなしに見つめてくる丸井に、不二が苦笑しながら注意を促す。でも、私自身が自分の顔を客観的に見てるから、その辺りに関しては特に突っかかるつもりはない。ていうか突っかかれないでしょ、現にこんな美人なんだし。

悟られてはいけない思考は笑顔に隠し、私は私達4人より倍の量を食べる2人と会話を弾ませた。2人共子供がそのまま大人になったような無邪気さを兼ね備えていて、なんだか新鮮な気持ちになれる。



「忍足はてっきりもう1人の忍足と同じ課に行くと思っていたが、違ったんだな」

「なんでそない侑士と一緒におらなあかんねん!俺に商品開発課は向いとらんわー」

「侑士って?」



そこで、柳が忍足に問いかけた内容に疑問を抱いた。流れ的には多分、商品開発課に忍足の友達かなんかの侑士?って人がいるんだろうけど、まぁ話を聞けばわかる事だ。だから私は素直に首を傾げた。



「あぁ、侑士っちゅーのは俺の従兄弟やねん。なんやかんやでずっと腐れ縁でなぁ、学生時代は別の学校やったけどまさか此処で一緒になるとは思っとらんかったわぁ」

「で、その人は商品開発課にいると?」

「せや。商品開発課の忍足侑士いうたら結構有名やで」



今答えてくれたのは白石だ。商品開発課の忍足侑士…うーん、残念ながら聞いた事無いや。そう思って苦笑するとその意志が伝わったのか、次は不二が話し始めてくれた。



「忍足も僕達と同じく、かつての部活仲間でね。彼は大学じゃなくて専門を出たから、2年前に此処に入社したんだ。課の中でも主にバイヤーを担当していて、それは口が上手くて有名だよ」

「へぇー…」

「あいつ女口説くのも上手いもんなぁ、流石だぜぃ」



バイヤーというのは、取引先と商品の価格交渉を行う人を表す。交渉するのは価格だけでは無いけれど、侑士という人は入社2年目にしてその達者な口先で既に数々の業績を残しているとか。

でも、最後に丸井が放った言葉を聞いて、どうせ侑士もイケメンなんだろうなぁと頭の中で場違いな事を考えた。お約束だ、お約束。

それからも色々な事に話を弾ませ、ランチタイムは終わった。帰り際に丸井が連絡先を聞いてきた事によりその場では連絡先交換会みたいなのが始まって、実は柳達とも交換してなかったから、新しいスマートフォンに一気に連絡先が増えた。
 1/3 

bkm main home
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -