18 「あれ?なんか珍しいお客さんが来た」 「よっ。久々やな」 「うお!白石やないかい!どないしたん急に!」 4月某日。後輩が出来てようやく先輩の自覚が出てきた所で、今日インテリア課2年生の私達に新しい仕事が与えられた。内容は、実在する家具を使って実際に自分達でインテリアをコーディネートしろというもので、今日はその下見として幸村の店に足を運んだ訳である。ちなみにこれはグループで行うものなので、私は柳、白石、不二と組む事になった。 私達4人の姿を見た幸村は不思議そうな顔で話しかけてきて、奥から出てきた一氏も久々に会ったらしい白石の肩をバシバシ叩いている。話し声に気付いた宍戸も、客が帰るのを見届けてから私達の輪に入って来た。そうして全員揃った所で、代表して柳が此処に来た理由を説明する。 「成程、それで此処に来た訳ね。ちょうど新商品も入ったばかりだし、ゆっくり見て行きなよ」 「急にスーツ4人組が来たから誰かと思ったぜ。にしても豊崎、久しぶりだな」 「そうだね。男前度が増したんじゃない?」 「言ってろよ」 私の言葉に対し呆れたように笑い飛ばす宍戸だけど、あながち冗談でもない。久しぶりに見る宍戸は前会った時よりもこの職場に慣れた感じが出ていて、もう少年のような幼さは無くなっている。一氏はあまり変わってなくて、幸村もなんせ家が隣だからちょくちょく会ってるし、そんな物珍しさは無い。という風に相変わらずの人間観察を行っていると、幸村は例の新商品について事細かに説明し始めてくれた。 「流石幸村、センス良いね」 「本当にね。私このソファ持って帰りたいわ」 「不二も豊崎も、そんな褒めても何も出ないよ」 芥子色のふかふかのソファに不二と座れば、一氏も「あー疲れたー!」と言いながら同じように座って来た。それを見て柳は「自由な店員だな」と苦笑したけれど、閉店間際なせいかもう他に客はいないから、そんなに気にする事でも無いだろう。 今回私達がコーディネートするにあたって、テーマはずばり“モダン”で統一している。その他にも北欧、アジアン、カントリーなど色々候補は出た末に、結局これに決定した。この店の家具はどちらかというとナチュラルなものが多いけれど、それでも使えそうなものは沢山ある。最初に言った条件の実在する家具というのは、別に1つの店舗に拘らなくて良いらしいので、それなら色んな店の色んな良い物を見つけようと思う。 「他にも来週入ってくる予定だから、良かったらその時にまたおいでよ」 「ほなそうさせてもらおか。おおきにな」 「ちなみにそのプレゼン、どれくらいの期間でやるんだ?」 「ちょうど1ヶ月だよ。ま、この3人がいれば私は何も考えず楽にやれそう」 「去年選抜された癖に何言ってるのさ。それは僕と白石の台詞だよ」 そこまで話し終えた所でそろそろ良い時間になってきたので、最後に店内を一周してから私達はそこを出た。これから1ヶ月間は頻繁に出入りする事になりそうだから、次は何か手土産でも持って来よう。 時刻は19時を回った。ちょうどご飯時なのでそのままの流れで私達は近くのレストランに入り、1時間ほどしてから各自解散した。 「楽しくなりそうだね。4人で仕事なんて初めてだから結構浮かれてる」 「そうだな。俺達2人の時に経験した事を生かせればいいが」 各自解散、といっても柳とは家が近いので、いつも通り2人で電車に揺られる。柳とは確かに色々あったものの、あれ以来気持ちを伝えられた事は無いし、やっぱり気を遣わずに話せる相手は楽だ。 電車を降りて、静かな住宅街を2人で歩く。暗くなった時は送ってくれる柳は、今日も当たり前のように私の家の方向に歩いていくれている。 「1ヶ月後、このプレゼンが終わったら飯でも行くか」 「そうだね、ぱーっと打ち上げしよう!あの2人酔わせちゃおうよ」 「勿論4人でも行くが、2人でもな」 「え?」 とそこで出された話題に、珍しく自分の口から間抜けな声が出た。たった今あの日の事を思い出したばかりなのに早速来たか。そう思い柳の方へ目線をやれば、それはそれは綺麗な顔で微笑んでいる。 「いつまでも俺が行動に移さないと思ったか」 あぁ、これは確かに格好良いわ。不意打ちをくらった事により不覚にも感心してしまった私は、一応恥じらっておこうと思い柳の腕を軽く叩いた。本当はただ感心しただけなんだけど、ここで可愛い反応の1つや2つ見せておかなきゃ流石に可哀相だもの。てな事を私が頭の中で考えているとは露知らず、柳は愛おしそうに頭を撫でてきた。あぁ、可哀相。 |