17

つい昨日カットしたばかりの髪を念入れにブローし、新調した香水を控えめに1プッシュする。スーツとYシャツもクリーニングからおろし立ててで、パンプスも昨日のうちに磨いておいた。

4月1日。今日、うちの会社では入社式が行われる。1年前の今日は訳も分からず成り行きで参加していたけれど、今回は自分が新入社員を受け入れる側だ。とはいえ、それだけの理由でこれだけ身なりに気を遣っている訳ではない。有難いというか面倒というか、社員代表として祝辞を読む事になったのだ。数百人の前に立つのだから気合が入るのも当たり前な話、かといってそれを見透かされては意味がないので、メイクはいつも通りでいく。

最後に玄関前にある鏡で最終チェックをしてから、ドアを開けエレベーターに乗る。行く途中で会った他の課の同僚に軽く挨拶をしつつ、会社に着き、社員証を提示して大ホールに向かう。



「おはよう豊崎君。今日は頑張ってくれたまえ」

「ご期待に添えられるよう尽力します」



入社式に一般社員は参列しないから、今日はもっぱら上司達の話し相手だ。他にも私と同期の人は何人かいるけれど、皆名前だけ知ってて話した事も無いので特に話しかけはしない。

それから徐々に人が入り始め、9時ちょうどに式は始まった。最初に社長の挨拶から始まり、すぐに私の番だ。名前を呼ばれ、数々の視線を浴びながら席を立ち、ステージ上に行く。



「新入社員の皆様、本日は入社おめでとうございます」



ステージ上からの景色は壮大なもので、1人1人の表情がよく見えた。緊張、憧憬、期待などなど。



「1年前に皆様と同じようにこの式に参加した時、正直右も左も分からず、不安な事も沢山ありました」



すらすらと出てくる祝辞は8割が嘘だ。



「ですが勿論それ以上の期待も多く、兼ねてより此処に入社を望んでいたあのやる気が、私を大いに奮い立たせていたと思う次第であります」



とそこで、無事に此処に就職が決まったというあの4人の姿を探すべく、私は小さく視線を四方八方に移した。流石にこの人数だから全員は見つけられなかったけど、あのくるくる頭は何処にいても目立つので彼だけは見つけられた。



「此処でする仕事にはやりがいも楽しさもあり、しかしそれだけではなく、その中で自分の目標を見つけるのも大きな課題となってきます」



例えば、あの男をぶっ潰すとかね。



「皆様1人1人がその意志を持っていれば、周りの人間も必ず貴方の力になってくれます」



利用出来るものはしておきましょう。



「失敗を恐れてはいけません。昔から失敗は成功の元、ということわざがありますが、私は社会人になり改めてその言葉の本当の意味を知りました。どんな事にも恐れず、自分から挑戦していきましょう」



私は失敗した事無いけど。

とまぁそんな感じで祝辞を終わらせ、最後に一礼をしてステージ上から降りる。鳴り止まない拍手喝采は、あのチンケな祝辞に感動してくれたと受け取っていいのだろうか。馬鹿くさ。

この1年間で、私は様々な決意をして来た。諦める事。傍観を決め込む事。弄ぶ事。嘘を吐く事。そして、あの男を潰す事。最後の決意に至っては未だに明確な答えが出せずにいて、随分とわだかまりを抱えている。でも、そこで今年こそは絶対に、と焦っては相手の思うツボだ。時間をかけてもいいから、兎に角じっくりとあの男をしらみ潰して行く。



「もはや憎悪の域だね」



はける為に舞台袖に行くと、周りから見て死角にいた男はそう呟き、楽しそうに笑った。憎悪?そんな言葉で表せるようなもんじゃないっつーの、バーカ。
 1/2 

bkm main home
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -