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「いやぁ、本当にどうもありがとうございました!まさかあの古びた店がこんなにも───…」



あれから4日後。越前さんのお店のリフォームは無事大成功に終わって、前に立っている店主さんはそれはそれは嬉しそうに話をしている。その様を全員が満足げに見ていて、跡部に至っては優越感に浸っている顔をしていた。



「長かったような短かったような、だな」

「そうね」



隣に立っている柳も、店全体を見渡してから感慨深げに話しかけてきた。課長にこの企画を言い渡されてから約2ヶ月、毎日本気で頑張ってたかと言われればそれは勿論ありえないけど、それなりに良い経験をさせてもらったと思う。元々インテリアは好きだし、仕事自体は全く苦ではなかった。それ以外の面を突かれるとそこはちょっと痛いのは置いといて。



「どうもっす。前の感じも好きだったけど、やっぱこいつらが来たのは嬉しいっす」



私達の元に来た越前さんは、店内にある新調された家具を見て頬を綻ばせている。何かとクールな印象しかなかったこの主人公は、大人になって少しは丸くなったみたいだ。

そうして私達はそこを後にし、最後の会議という事で跡部の会社に向かい始めた。ぞろぞろと歩いている途中で跡部も近くに寄ってきて、いつも通り2人に挟まれる形で歩く。



「跡部、嬉しくてたまらないって顔してるね」

「あ?うるせーよ」

「そう照れるな」

「お前らタッグ組んだらタチ悪ぃーな」



目を細めて呆れ顔になった跡部を見て、私と柳は目を合わせて小さく笑う。あれだけ疎ましく思っていたはずなのに一緒に仕事をしていたら自然と仲良くなってしまうのだから不思議だ。厄介な事には変わりないにせよ。

それから会社に着いて最終会議を小一時間ほどして、今回の企画は幕を閉じた。時刻はもう17時近くで、事前に上から許可を貰っているので私と柳はもう退勤する。どうやら跡部もそうみたいだ。新入社員の特権ってやつ。



「これから仁王のとこにでも飲みに行くか」

「気が利くじゃねーか。打ち上げだな」

「さんせーい」



そのままの成り行きで仁王の店に行く事になった私達は、また仲良く3人肩を並べて歩き始めた。途中で擦れ違った女子高生にキャーキャー言われても素知らぬ顔をしていた2人は、やがて女子高生の姿が見えなくなると軽く口角を上げた。そして跡部が「当然だろ」と一言。で、柳も口では言わないけど軽く頷く。2人とも良い感じに性格が悪くて面白い。



***



「ほんじゃ企画は大成功という訳か。おめでとさん」

「凄いっすよねー3人共!さすがっす!俺達も見習わなきゃ、なー日吉!」

「お前酔っ払ってるだろ」



話してた通り仁王のお店にやって来ると、そこには偶然な事に赤也君と若君もいた。若君の肩を持ちながらそう言った赤也君の顔は既に赤く、仁王に聞いてみた所もう結構な量を飲んでいるらしい。そりゃ酔うわ、お酒弱そうだもんこの子。それに比べ若君はツラッとした顔をしていて、なんだかやけに対称的な2人だなぁとどうでも良い事を考える。



「お前ら、卒論はどうなんだ」

「俺は問題無いですよ」

「赤也、お前は?」

「…聞かないでほしいっす」



でも、酔っ払いの赤也君もそこには触れて欲しく無いのか、柳の問いかけにはガクンとこうべを垂れた。飲みかけのピーチウーロンを口を尖らせながらちびちびと飲み始め、拗ねている事を全面に押し出す。そんな彼を見て、直接の先輩である柳と仁王は呆れた表情になった。



「全く、本当におまんは運動しか出来ない単細胞じゃのう」

「単細胞って酷いっすよ!」

「内定貰えたのが奇跡だな」

「跡部さんまで酷い…!律子さん慰めてー!」



全員から冷たい眼差しを向けられた赤也君は私に助けを求めて来たけど、残念ながら苦笑しか出来ない。この子は私と違って自力でどうにかしなきゃいけないんだもの。頑張れ赤也君。

そんな風にしばらく飲み続けていると、休日でもないのに段々と店内は賑わって来た。そこでタイミングを見計らったように金ちゃんが出勤して来て、従業員2人は忙しなく働き始める。私達はその姿に大変そうだなぁと思いつつ、それでもお酒を飲むペースは緩めなかった。ごめんね仁王、今日は一仕事終えたから沢山飲みたい気分なの。



「なんだ豊崎、お前結構いけるクチか」

「普通の子よりは強いんじゃない?」

「あまり飲みすぎるなよ」



煽ってくる跡部に止めてくる柳。よくもまぁこんな正反対な2人と上手く仕事出来たもんだ。

とその時、ふと視線を感じた方に意識を向けてみると、そこにはグラスを片手に持ちながら私を凝視している若君がいた。一見睨まれているように見えるけど多分彼の目つきが元々悪いだけだ。だから「どうしたの?」という意を込めて小首を傾げてみると、そのままスッと逸らされた。え、可愛くない。



「無視はないんじゃない?」

「は!?お前律子さん無視とかありえねーぞ!」



それでムッと来た私は、1番端にいる若君の隣に移動し赤也君と一緒に彼をからかい始めた。至極鬱陶しそうにしている若君が面白くて堪らない。そうしてお酒のせいもあり少し調子に乗っていると、急に片手をガッと掴まれた。ガタガタッ、と柳が席から立つ音がして、空気が一瞬にして変わる。



「どうして怒ってるの?」

「…よく言いますよ」



でもそれはまた一瞬で戻り、他の客のガヤガヤとした声が耳に入って来た。そんな中若君は小さく何かを呟いたけど、私はそれを聞こえてないフリをしてまた柳の隣に戻った。

一丁前に嫉妬なんかしちゃって、やっぱり前のは効果絶大だったのか。成功成功!
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