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「皆さん、今日はお集まり頂き―――…」



そうしてやって来た新入社員合同飲み会。忍足、丸井と同じ課だという幹事が何やら気張った挨拶をしているにも関わらず、皆は如何に周りとどう絡むかを真剣に考えているようで、全体を見渡してはひそひそと会議を立てている。概ねあれが可愛い、美人、格好良いだの、そんな所だろう。向かいの男3人組、私見て騒いでるのバレバレなんですけどー喧しいなー。



「なんていうか、大規模な合コンだね、これ」

「ほんまやなー。あ、ちゅーか今日俺の友達も来るねん」

「ん?これって招待制なの?」



隣にいる忍足に話しかけてみれば、ちょっとこの会の主旨に合ってない言葉が返って来たから、思わず首を傾げる。それから話を聞いてみると、なんでもこの会社の店舗で働いている中学来の友達だそうで、あぁまたテニス部繋がりか、とそれだけで辻褄を合わせる。



「あれや、前に豊崎、白石達と幸村の店に行ったんやろ?そん時にユウジって奴おらんかった?」

「ユウジって、一氏の事?」

「せやせや!そいつがキモイくらいに惚れ込んどる相手やでー。小春っていうんやけど」

「小春!その名前聞いた!」

「せやろ!?」



成程、一氏の彼女が来るって事か。あれ、でもそういえば一氏って相当嫉妬深いみたいだし、こんな所に呼んじゃっていいのかな。忍足はそこらへん鈍そうだけど、まぁ会社の集まりだし仕方ないのか。そう勝手に納得しながら話を進めていると、不意に忍足が私の後ろの方を見ながら「おぉ!こっちや小春!」と両手を挙げた。いよいよ来たか小春、と何故か意気込みながら後ろを振り向けばそこには、…あれ?



「ごめんねぇ、道に迷ってもうたーん!」

「おぉ小春、お前も来たんか!」

「久しぶりばいねぇ」

「あら蔵リン、千歳、久しぶり!」



私達の元へ辿り着くまでに、白石、千歳とそんな会話を交わしているのが見える。あれ?あれれれ?近付けば近付くほど私の中の小春像が崩壊していくのを感じて、思わず動揺しながら忍足に向き直ると、忍足はしてやったり顔を浮かべていた。もしかしてもしかしなくとも、騙された感じですか?



「小春って、女の人じゃないんだね」

「愛の形に男も女も関係ないで」



明らかに茶化している忍足は、後で飲ませまくって潰してやろうと決めた。

そうこうしているうちに乾杯の音頭が始まって、滑り込むように私達の間に座って来た小春も手元にあったカシスオレンジを手に取り(忍足が先に頼んでいた)、それを高く掲げかんぱーい!と一緒になって盛り上がった。至る所で始まった見栄という名の一気飲み合戦は完全に無視し、至近距離にいる小春に意識を向ける。



「ごめんね、正直ちょっとびっくりしちゃった。貴方が小春?」

「せやでー!豊崎律子ちゃんやろ?自分の事は皆から聞いとるで!よろしゅう頼んますー!」

「うん、よろしく」



見た目と中身のギャップにここまで驚かされたのは、これが初めてといっても過言では無い。こんな人もテニスの王子様に出ていたのか。とは思ったものの小春との会話は異常に弾み、まるで女相手に話をしている気分になった。



「そういえばウチの店舗で働いてるんだよね?何処?」

「会社からはちょっと遠いんやけど、車で行けば30分もかからないで!後で地図教えるから遊びに来てやー、ちゅーかアドレス教えてやー!」

「オッケー」



私が小春との会話に夢中になっているのが悔しいのか、周りの男共は恨めしそうな視線をこっちに向けてる。そんな不細工な顔で目当ての女見つめんなっての、と毒を吐くのは忘れない。そもそもタイプじゃないし。

連絡先の交換が終わった所で、小春は「ちょっとあいつらのとこにも行ってくるわね」と言って、白石達の所に行った。ちなみに忍足は既に違う女の子に捕まっていて、随分さっきから此処には居ない。

さて、じゃあ次は誰と話そうかな。変な男に捕まる前に立ち上がろうと思った瞬間、背中にドシッと重みが圧し掛かった。
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